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2020.11.24

column

経済学者・田中秀臣先生に聞く「スガノミクスとは何なのか」

経済学者・田中秀臣先生に聞く「スガノミクスとは何なのか」

令和2年9月16日、菅義偉(すが・よしひで)第99代内閣総理大臣が誕生しました。

その政策の中でも多くの方が注目しているのものひとつが「経済」でしょう。
歴代最長となった安倍内閣において経済政策の柱とされていた「アベノミクス」。この後継となる「スガノミクス」はどのようにコロナ禍を経た日本の経済をかじ取りしていくのでしょうか。

毎月最新の経済ニュースについて、経済学者田中秀臣氏の軽妙な語り口とともにお届けしてきたSchooの授業シリーズ『田中秀臣の最新経済ニュース』。その第25回、2020年9月号では「スガノミクスとは何か、そしていつまで続くのか?」と題し、授業時点で圧勝の形勢を見せていた菅内閣の経済政策について取り上げました。

この記事で、スガノミクスとは何なのか、その取り組むべき課題は何なのかといった気になるポイントについてみていきましょう!

目次

  • スガノミクスとは何なのか
  • 菅政権の今後と安倍政権の雇用状況
  • 追加就労希望就業者を減らしていかなければならない

 

スガノミクスとは何なのか

 

「先週少しやったかもしれませんが……」と前置きして田中先生がまず提示するのが「雇用と個々の所得の改善と増加が必要」ということ。この場合の所得の改善はボーナスを伸ばすのではなくいわゆるベア(基本給に対する昇給率)ひいては全体の平均所得を引き上げるということです。

 

そのために必要なのが「2021年度の終わりぐらいまでにはコロナ危機以前のGDP水準に戻すこと」。国際機関は2022年度と発表していますが、それよりも前倒しに、2021年度までには目標達成したいところです。

 

その後は名目GDP成長率目標政策を立てて毎年4%以上GDPを引き上げていきます。そのためには政府と日銀のさらなる協調が求められます。日銀の平均2%目標(≒2.5%目標)ないし3%のインフレ目標の導入も欠かせません。

 

 

ここには、アベノミクス以上の経済政策を行ってほしいという田中先生の願いも込められています。

 

このような状況におけるマクロ経済のアドバイザーの座は誰になるのか。人脈の広い菅首相のもとにはいわゆるリフレ派に限らない人材も集まる可能性があると田中先生。逆の派閥の人材が集まってしまう可能性もあるため、内閣府3位を誰がとるのかが重要になってくるそうです。安倍内閣では藤井聡氏と浜田宏一氏の意見の対立なども見られましたが、異なるメッセージが発信されるリスクを考えると「できればマクロ経済政策に関しては同じことを言う人をそろえてほしい」と田中先生は語ります。

 

 


菅政権の今後と安倍政権の雇用状況

菅政権は授業での予測の通り誕生しましたが、総選挙に敗れ短期政権に終わる可能性はまだ残されています。それを回避するためには「菅さんが二階派などの派閥に顧問などとして入るのがいいかもしれない」と先生は考えているそうです(菅氏は無所属)。

 

ただし、「派閥の人事にこだわらない」「反派閥」のスタンスをあまり打ち出すと縛られてしまう、またマスコミにイメージダウンの報道がされる可能性があるため、慎重であることは求められるとのこと。なお、派閥には「既得権益」「派閥争い」などのイメージがありますが、ほとんどそうした旧来のイメージのメリットは失われていると補足されました。それでもまとまった人数が動いてくれるというだけでも派閥に所属する意味はあるようです。

 

 

ここで「安倍政権は雇用面がすごくよかった」と発言し、統計の掲載されたスライドを表示させた田中先生。おととしに新たに導入された「未活用労働指標4(LU4)」は普通の失業者に「追加就労希望就業者(現在よりも長時間働くことを希望する労働者)」と「現在は働いていないがまた働きたい人々」を加えたパーセンテージを表す指標です。「すなわち広い意味での失業率なんですよ」と田中先生。

 

この数値が、去年の年末には5.8%と、安倍内閣下の日本では先進国の中で最も低く実現されていました。これが今ではコロナウイルスの影響で7.7%に拡大してしまっていますが、それでもアメリカ・イタリアなど他国に比べればかなり低い水準です。アメリカではもはや働くことをあきらめてしまっている人々や休業状態が続いてしまっている人が急増しましたし、イタリアでは30%を超え「若くて働いている人が周りにいるの?」と感じられるような状況にあるようです。

 

ちなみに、オーストラリアの失業率が15~16%の時に田中先生が遊びに行った際は平日のビーチで若い人が大勢遊んでいたそうです。

 


追加就労希望就業者を減らしていかなければならない

続いて示されたのが「労働市場の循環」の図。失業者、就業者、非労働力人口(働く意思がない人・働きたいと思っても働き口がない人)の移動で労働市場は規定されます。安倍政権では集魚者が増え、非労働力人口・失業者が減りました。「非常に良い循環だったんですよ」と田中先生。

 

一方、現在のアメリカは失業者と非労働力人口が増え、就業者が減っているのに失業率が下がっているという奇妙な状況にあります。それは、失業者よりも非労働力人口の増加幅の方が大きいからです。

 

以下のグラフは日銀の片岡剛士審議委員が講演で利用した資料です。

 

 

ここでは、先ほど取り上げた未活用労働指標4の前年同期からの変化幅が棒グラフで示されています。2020年の4~6月に大きく増えているのが「追加就労希望就業者」。休業している人やパート・アルバイトで労働時間が少なくなった人が急増したということです。また、潜在労働力人口も増えています。

 

「この『追加就労希望就業者が多い状態』がずっと続くと行く末は2つに分かれる」と田中先生。

 

「失業者になる」と「追加就労を諦めてしまう」の2つです。そうなると見た目の失業率は下がる可能性がありますが、中身を見ると雇用の状態は全く改善していない可能性があります。そのため、今まで以上に統計の中身を見ていく必要があるでしょう。

 

「白いゾーン(追加就労希望就業者)を減らしていかなければならない」と先生は語ります。そのために注目すべきなのが就業者数を大きく減らした「宿泊・飲食サービス」「卸売・小売」「生活関連サービス・娯楽」「製造業」「建設」などの業界。

 

これらのコロナ禍で大きな打撃を受けた業界をどう活性化させていくのかが菅政権の経済政策の最初のハードルとなりそうです。

 

田中先生による経済解説はこのように様々な資料を引用しつつ毎月開催されています。バックナンバーをご覧になりつつ、次回の放送を楽しみにお待ちください!

 

『田中秀臣の最新経済ニュース 第25回 スガノミクスとは何か、そしていつまで続くのか?(2020年9月号)』

http://schoo.jp/class/7072/room

 

文=宮田文机

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