目次
- 長く働くことが評価される原因は採用方法にある
- 外部取引先と労働時間の関係性
2020.11.26
「日本人は働きすぎ」という言葉をよく耳にしますが、それは私たち日本人が勤勉だから起こることなのでしょうか? 働き方改革や生産性向上といったワードが頻出する一方、なかなか定時で帰れない日々にやきもきしている人も多いでしょう。
今回は経営コンサルタントの坂口孝則先生に、私たちが働きすぎてしまう理由を聞きました。本記事では、雇用形態のしくみと外部企業との関連性から見える、日本人が働きすぎてしまう原因を解説します。
日本には法人企業(※個人事業主を除く)が267万社ほどあるといわれており、これは先進国の中でも多い数です。つまり、日本企業は取引する企業数が多い国とも言い替えられます。
具体的な例として、自動車を年間1000万台ほど販売する海外企業BMWと日本企業トヨタを比べてみましょう。BMWは22万人の社員を擁し、ほぼすべての工程を自社内で完結させます。一方、日産の社員は7万人で、国内外の外部企業と連携しながら一つの車を完成させます。
社内と社外で比べれば、明らかに前者のほうがコミュニケーションしやすく、合意形成にも至りやすいでしょう。つまり、同じ工程を比較すると、日本企業は海外企業よりもコミュニケーションコストがかかりやすいということです。結果として、労働時間が長引いてしまいます。
一部の業界では価格をつける基準も働きすぎを助長しています。広告代理店業を比較すると、海外では労働時間を基準として価格を定めるのに対し、日本はCM1本に対して価格を設けます。後者は労働時間がどんなに長引いても価格が変動することはないため、成果を高めるために労働力を延ばす構造を作りがちです。
こうしたあらゆる日本企業のシステムや価格メニューが、長く働かざるを得ない環境をつくります。働き方改革という言葉が登場して久しいですが、働き方改革だけでなく、働かせ方改革が必要だと坂口先生は解説します。
授業ではこの他にも、国内外で比較した生産性の話や、コロナ禍でのリモートワークが労働時間や雇用形態にどのような影響を与えていくかなど、ホットな話題を取り上げました。
今回はシリーズ「ギモンの法則 -不確かな未来を経済でひらく-」の中から第1回「なぜ私たちは働きすぎるのか?」の内容をお届けしました。
本シリーズは学び手として声優・漫画家の徳井青空さんがゲスト出演しています。社会や働き方、ビジネスモデルについて疑問を抱いている方は、ぜひチェックしてみてください。
『ギモンの法則 -不確かな未来を経済でひらく- 第1回 なぜ私たちは働きすぎるのか?』(未会員の方は無料で1時間視聴可能です。)
http://schoo.jp/class/7441/room
文=宿木雪樹
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まず、雇用や採用から日本の労働環境の特殊性を考えてみましょう。実は、世界中で新卒一括採用というしくみを取り入れているのは、日本と韓国の一部企業のみです。新卒一括採用は、若年層の失業を防ぐ効果があります。
例えば、学生時代は音楽や映画にしか興味がなかった人でも、就職活動を経て興味のない分野の企業に入社できます。たとえ若くスキルがなくても、安定した給与を得られる。これが新卒一括採用のメリットである反面、その後の人材育成にかかるコストというデメリットにもつながります。
新卒採用した未経験の人材は、どんなに短くとも2~3年かけて育成しなければなりません。興味のない分野の仕事でも覚えるためには、ある程度『同じ釜の飯を食う』仲間という感覚を前提に、社風に慣れていってもらう必要があります。
これが、日本企業の主流となっているメンバーシップ型雇用にもつながっています。メンバーシップ型雇用とは、人に対して仕事を割り当てる方法です。メンバーシップ型雇用は明確なスキルを持たない人材でも仕事をできるメリットがある一方、成果による評価が出しづらいデメリットがあります。
成果による評価ができないと、社内にいる姿やイメージが評価基準となりがちです。だから、長くオフィスにいたほうが評価されやすくなる。これが、日本企業において「長く働いたほうがいい」という文化を生み出す原因です。
また、日本企業は雰囲気による合意形成を目標に会議する傾向があります。あらゆるアクションの決定に時間がかかるのも、労働時間を長引かせる原因になっています。さらに社内評価も、こうした文化のもと部長同士などの合意形成によって評価が定められてしまいがちです。