目次
- ランキングはどうやって作られるのか
- FIFAランキング、日本の最高順位は何位? そこに潜む「統計の罠」とは
- 日本の「犯罪や暴力に対するビジネスコスト」がリビアやサウジアラビアよりも低くなる理由
2021.09.25
人気商品ランキング、年収ランキング、視聴率ランキング……世の中にはランキングがあふれています。みなさんもきっと、それらをビジネスや日常生活の参考にしたことがあるでしょう。
しかし、それらを鵜呑みにするのは危険です!
そもそもそれらはどうやって作られるのか、それらの背景にはどのような罠が潜んでいることがあるのか、あなたは答えることができますか?
本記事では長野県立大学グローバルマネジメント学部長、田村秀先生による講義『「データに基づく話」を過信しないためのデータ・リテラシー』の内容をもとに知っておきたいランキングの実態をお届けします!
ここで先生から、以下の問題が出されました。
男子サッカーの国ごとの強さを序列化するFIFAランキングにおいて、2021年4月現在、ベルギーが1位、日本が28位(アジア1位)です。では、日本のランキングが1番高かったのは何位だったでしょうか?
正解は、1998年2月ごろの「9位」です。この年、日本はフランスワールドカップを直前に控えており、その結果は3戦全敗で予選敗退でした。とても9位の実力とは思えません。しかし、なぜこの年、日本は最高順位をマークすることができたのでしょうか?
それは、「統計の罠」があったからなのです。スポーツの場合、基本的にそれまでの対戦成績を数値化していきます。このころは単純な加算方式で、“どんな国相手であっても”勝てば3点、引き分ければ1点が与えられ過去のポイントの累積でランキングが決められることになっていました。対戦相手がブラジルであっても、ブータンであっても。そのため、ワールドカップの最終予選で3連勝したことが決め手となって日本のFIFAランキングは9位という不相応な位置まで高まったというわけです。
現在は相手の国の強さや大会のレベル、含める試合の期間など複数の要素が上手く考慮されるように工夫がなされています。それでも北朝鮮など、対外試合が少ない国は過小評価の傾向にあるのが現実。また、ロシアワールドカップにおいて多くの専門家が予選突破国の番狂わせとして日本(61位)とロシア(70位)を挙げました。しかし、先生はロシアに関しては番狂わせではないと考えたといいます。
それは、開催国として地の利があったからだけではありません。2014年のブラジルワールドカップ直前のロシアは18位でした。しかし、開催国は予選免除という規定により、開催の1年ほど前は親善試合くらいしかプレーしなくなるのです。そして、親善試合のポイント加算におけるウェイトは予選の0.4倍。すなわち、ロシアのランクは開催国だったからこそ、過剰に低くなったのです。
「こういうのっていっぱいあるんですよ」と先生。
例えば、都道府県や市町村の地域ブランドランキングの結果はただの知名度の多寡に過ぎないといっても良いとのこと。そもそも偏ったモニターに対するアンケート調査のため一般化することに適していません。先生の出身地、北海道苫小牧市は工業地帯やフェリーの拠点があり社会の教科書に出ることで知名度を獲得しているため、静岡県伊東市や北海道洞爺湖町といった観光地を抑え、とある調査の観光地ランキングで71位を獲得したということです。
前述の国際競争力のランキングの指標の一つに含まれていた「犯罪や暴力に対するビジネスコストの多寡」。これは、各国の経営者に7点満点でスコアリングしてもらった平均点から導き出されます。では、2008年、2011年ともに1位だった国はどこでしょうか?
正解は、シリアです。日本はといえば、2008年は5.0点で57位、2011年は5.5点で36位でした。2008年の6位はリビア、2011年の2位はサウジアラビア、3位はアラブ首長国連合です。
日本はそれらの国と比べてそんなに治安が悪いのでしょうか?
──違います。アンケート調査にはその国の実態以上に各国のビジネスマンが自分の国をどう見ているかが反映されました。その結果、誇り高い国民性を持つ国や体制批判に圧力がかかる国では低い点数が申告されることになるのです。
教育全般の質は36位、政治家への信頼度は55位、政府支出の無駄遣い度は78位とほかの項目でも日本のスコアは低く、「日本人が自国を過小評価している側面は否めません」と先生は語ります。
このような点を考慮すると、アンケート調査よりもその道のプロの目利きの方が信頼できるとも考えられます。回答数が多いからと盲目的にランキングを信用すれば良いというわけではないということですね。
私たちの身の回りに存在するランキング。ついつい興味を惹かれてしまいますが、立ち止まって「本当に正しい方法で集計されているのかな?」「どのくらい実態が反映されているんだろう」と検証する姿勢が大事だといえるでしょう。
全2回の田村先生の授業シリーズ『“思い込み”を解消するデータ・リテラシーの鍛え方』。今回は第2回の内容をご紹介しました。「もっと田村先生の授業を受けたい!」という方はぜひ、第1回『統計・調査に潜む「罠」を見極めるためのデータ・リテラシー』から授業を受講してみてください!
文=宮田文机
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「データに基づく話は、もっともらしいものが多いですが、実際、掘り下げて調べてみると『あれ?』とハテナマークが付くものが少なくない」と田村先生は話します。そして、その代表格がランキングです。
ランキングは、格付け、順位、序列を意味し、相撲や歌舞伎役者の番付など、かねてより日本人に親しまれてきました。
リアルタイム受講生からも、星座ランキング、世界の大学ランキング、カラオケの曲ランキング、コンビニのスイーツランキングなど普段参考にしているランキングがさまざまに挙げられます。
ランキングは人の感情に作用します。例えばランキング上位のラーメン店に入ってみたくなりますし、自分の出身地のイメージランキングが下位だと多くの人は少し残念な気分になるでしょう。
しかし、そもそもランキングがどうやって作られているのか気にしたことがある人はそう多くないと先生は推察します。
単純なランキングでは、売上や販売額などひとつの指標(データ)で序列が決められます。浜松市と宇都宮市を対象に調査される餃子の購入額ランキングもそのひとつ。
しかし、多くのランキングではもっと複雑に、複数のデータを組み合わせ、総合化して順位が決められます。例えば中学や高校のテスト結果の順位は、国語、理科社会など科目の点数を偏差値化して、その平均で順位を求めたり、合計したり、理系・文系など選択科目別に配点に傾斜をつけたりして求められることがあります。このように加算方式か平均方式(あるいは両者の組み合わせ)でランキングは作られます。例えば、国際競争力のランキングはマクロ経済環境、公的制度、技術力などの項目ごとに、さらに細かな指標を総合することで求められています。