不安や恐怖を感じたときに、なぜ人は何かにすがりたくなるのか
目次
- 宗教の役割はどう変わった?
- 不安や恐怖の乗り越え方
- なぜ人は神頼みするのか。宗教を心の拠り所とする理由
今回は作家/宗教学者の島田裕巳先生に、不安や恐怖を感じたときの人の心理やその乗り越え方を、宗教の本質的な考え方から解説していただきます。
島田 裕巳 先生
作家/宗教学者
中田 有香
受講生代表
2020.10.04
島田 裕巳 先生
作家/宗教学者
中田 有香
受講生代表
それでは早速授業に入っていきたいと思います。島田先生、まず歴史を振り返って宗教が果たした役割についてお話しいただけますか。
はい。今コロナウイルスが流行っていて、みなさん「死」を今までより身近に感じていると思います。今や世界のどこにでも宗教がありますが、宗教の発端は「死」が大きく関係しているのではないかと思います。
宗教というものは「死後の世界はこういうものである」と様々な形で主張しています。歴史的に、自然災害や疫病で社会が上手く対応できなかったことがありました。その時に、生きている世界に希望が見出せないのなら、死後の世界に期待しようと考えたわけです。
一方で、現代の日本では技術の進歩に伴い、そこまで「死」が身近なものではなくなってきました。そうすると、あの世での暮らしや生まれ変わった後のことではなく、この世の中でいかに幸福になるかが大事になってきました。それに対して、「宗教がどんな役割を果たすことができるか」ということが重要な課題として出てiいたわけです。
なるほど。人生100年時代とも言いますよね。
日本では戦後、色んな「新宗教」が出てきました。
そういう「新宗教」は何を説いたのかというと、「貧・病・争」です。宗教に入る動機はこの「貧・病・争」だと言われました。
貧しい人たちが豊かさを実現していきたいとき、病から立ち直りたいとき、それから昔は嫁・姑問題が結構あったので、家庭内の争い事から解放されたいとき、信仰が役立つと説いたということです。
なので、宗教の役割は「あの世で生まれ変わる」ということから「現世で幸福になる」ということに変化していったと言えます。これは仏教の言葉で「現世利益」と言います。
最近はかなり技術や医学が発展してきているので、なかなか宗教に頼るというケースは見られませんが、例えば癌になって余命宣告をされたという状況だったら、医学には頼れないですよね。そういう場合に宗教や神様に頼るという人はいます。
そう考えると、まだまだ宗教の役割は大きいです。また、現代では孤独を感じる人が多くいます。「仲間」を求めて宗教に入るという人もいるのではないでしょうか。時代によって宗教の役割は変わってきていると思います。
不確かなものに不安や恐怖を感じたときに、心の拠り所として宗教が存在してきたということですね。
そうですね。
続いては、不安や恐怖の乗り越え方についてお話ししていただきます。島田先生、よろしくお願いいたします。
はい。テレビなどで報道される事件はセンセーショナルに報道されますよね。それは「いかに危険か」ということを強調しないと、見てもらえなくなるからです。
なのでそういう情報ばかりに触れていると、不安に駆られて気がおかしくなってしまうんですね。もちろん、知らないというのも危険で世間の情報を知っておくことも大事ですが、そういう情報は新聞などの活字で入手した方がいいです。私なんかは、災害やコロナなどの大きな出来事があったときはなるべくテレビは見ないようにしています。
また、大体自分にとって悪いことが起きたときは、たまたま事が起きて悪い状況になったということが多いです。なので、悪い状況を避けるために原因を追究しすぎたり、考えすぎたりするのは良くないと思います。
なるほど。
そして、私は宗教を考えるときに重要なのは「通過儀礼」だと考えています。通過儀礼とは、人生においてその人が変化するときに行われるものです。
新しい自分に生まれ変わるときは試練が伴うとされ、試練を乗り越えると新しい自分になれる。これが本来の通過儀礼の意味です。
宗教の本質が通過儀礼であるとすると、悪いことが起きたときは、自分に試練を与えられているのだというふうに考えられますよね。このように思考を持っていくわけです。
もちろん試練なので、簡単には乗り越えられないのですが、そういう試練がめぐってきたのであれば、自分が新しい自分に生まれ変わるチャンスが来たと考えられます。このように考えると、物事を前向きに捉えることができると思います。
なるほど。たしかに悪いことを試練と考えれば、気持ちが前向きになって乗り越えられそうですね。ありがとうございます。
ここで質問をご紹介します。「無宗教の人は、自由主義経済を心の拠り所にしていると考えられないでしょうか。そのため、価値を測る基準を、経験よりお金に求めているのでは?と思います。」とのことです。島田先生、いかがでしょうか。
なるほど、ただお金だけでは全て解決できないですよね。例えば「100億円払うからコロナを治してほしい」と言ってもできませんよね。お金がどれだけあてになるのだろうかと思います。
そうですね。お金で解決できないときにどこを拠り所にするか、自分の心が弱くなってしまったときにどこを拠り所にするか、ということですね。
では続いての質問です。「生まれ変わることをチャンスと考える根拠は、進化論(生き残るため)でしょうか。」ということです。
そうですね。人間の中には本能的にそういうものが備わっているのでしょうね。人間は他の動物より長生きするので、そういうものが備わっていないと生きていけないのではないかと思います。
はい、ありがとうございます。続いての質問です。「そもそも論ですが、宗教というのは、『死』『生』を考えると思ってもいいのでしょうか。」とのことです。
そうですね。「生まれ変わる」というのも、今までの自分が死んで新しい自分に生まれ直す、ということだと思います。なので「死」と「生」が繰り返されていくというのが宗教の考え方なのではないでしょうか。
ありがとうございます。続いての質問です。「宗教は自殺をどのように捉えているのでしょうか。」
元々人間は「神に創造されたもの」とされているので、それを自分で勝手に終わらせるというのは良くないという考えですね。
なるほど、ありがとうございます。本日は、不安や恐怖を感じたときに、なぜ人は何かにすがりたくなるのかについて、宗教の本質から解説いただきました。島田先生、ありがとうございました!
不安な状況が続いていますが、みなさんも今日の授業をぜひ参考にして、気持ちを前向きにしていきましょう!
2020年10月04日 公開
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不安や恐怖を感じたときに、人は本能的に何かにすがりたくなります。その対象として、宗教や神様は大きな存在感があります。そこで今回は、宗教学が専門の島田先生に、宗教学の視点から解説していただきます。