目次
- 緊急事態宣言・再延長がもたらす経済や雇用への影響
- 女性の雇用悪化が深刻な問題を引き起こす⁉
- ワクチン接種に関する報道の歪み
2021.06.08
5月から隔週配信となった授業『田中秀臣の最新経済ニュース』。第34回は「マスコミと東京オリパラ報道の歪み」「高橋洋一辞任と景気」がテーマでした。
また、ちょうど本授業配信の数時間前に、緊急事態宣言の再延長が決定。授業内では急遽、再延長がもたらす影響について取り上げられ、田中先生の考えをタイムリーに知ることができました。本記事ではそんな授業の一部をご紹介します。
先生が次に提示したのは、未活用労働指標の推移を表したグラフ。未活用労働指標とは、労働力人口と非労働力人口の一部をあわせた人口のうち、失業者や非労働力者の割合を示す指標です。この数値の増加は、求職意欲喪失者の増加に大きく関係します。
一方で、直近の失業率は2.8%と前月よりも減少傾向にあるとのこと。なぜ失業率が下がっているのに、失業者や求職意欲喪失者は増えているのでしょうか。その理由を先生は以下のように語ります。
「失業率はそもそも、雇用形態関係なく“働く意欲がある人”が分母です。ただ、いまは雇用状況が悪化しているせいで、働きたくても非正規雇用希望の人はほとんど採用されません。するとだんだん働くことを諦めはじめ、自然と失業率の分母からはずれます。結果的に失業率は減少するものの、失業者や求職意欲喪失者は増加するという現象が起こるんです」
またグラフでは、男性よりも女性の方が未活用労働指標の値が高く、直近の数値も2020年4月から6月の数値と同程度まで上がっています。先生は、この状況をとても危惧しており「女性の自殺率が急上昇する可能性がある」と強調。実際に2020年4月の緊急事態宣言下では、雇用がまったく促進されず女性の自殺率は急上昇したそうです。「3回目の緊急事態宣言と再延長で、未活用労働指標の数値が上がるかどうかわかりませんが、これから注視していくべき点」と先生は語ります。
授業の中盤、先生はマスコミと東京オリンピック・パラリンピック報道の歪みについて触れます。まず取り上げたのが、ワクチンの接種状況を表すグラフでした。
グラフを見ると、5月9日あたりから急激に1回目のワクチン接種率が上昇しています。これには田中先生も「ワクチン接種に関わる人たちの努力の賜物、すごい!」と驚愕。ただ同時期のネットニュースには、以下のような見出しがつけられており、上昇率を伝える内容にはなっていなかったそうです。
確かにこのままのペースでは、政府が当初定めた「7月末までに希望する高齢者全員にワクチンを接種する」という目標には間に合いそうにありません。ただ、本来ワクチンを接種する目的は、新規感染者数や重傷者数をいまよりも減らす点にあるはず。その上で先生は、マスコミに対して注目する点を変えて報道するべきと語ります。田中先生が考える注目する点、報道するべき部分とは?
授業後半では、新型コロナウイルスとオリンピック報道の歪みについて、より踏み込んだ話が聞けます。また先生の友人でもある高橋洋一さんの辞任と景気についても語られます。詳細はぜひ、実際の授業で確認してみてください!
文=トヤカン
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授業当日の夕方に決まった、緊急事態宣言の再延長。東京都の内容を例に挙げると、デパートや映画館といった施設の規制は一部緩和、飲食店やカラオケは午後8時までの時短営業が継続されるとのこと。その上で先生は、今回の再延長が日本経済にどのような影響を及ぼすのかについて触れます。
まず、先生が見たのは経済成長率。2回目の緊急事態宣言が出た1月から3月では、前期比マイナス1.3%という結果が出ました。3月の時点でマイナス成長だったこともあり、先生は「今回の緊急事態宣言延長で、さらにマイナスに傾くだろう」と予測します。
経済のマイナス成長が続くと浮き彫りになるのが、雇用・労働の問題。先生曰く、現在の日本の15歳以上の人口1億1045万人に対し、失業者は209万人、働く意欲が失われた人(非労働力人口)は4170万人もいるとのこと。先生は「政府がこのまま何も対策をとらなければ、失業者だけで10万人近く増える」と語ります。
ただ雇用状況全体を見てみると、正規雇用者の数は落ち込んでおらず、むしろやや増加しています。先生も「失業者は増えているものの雇用が全面的に落ち込んでいるわけではない」と述べます。
ではなぜ、私たちは雇用が減っているように感じるのでしょうか。先生曰く、今回のケースは「卸売・小売り業」「宿泊業」「飲食サービス業」といった特定業種の雇用の落ち込みがひどく、それによって雇用全体が落ち込み、減っているように見えるのだそう。リーマンショックの時期や90年代終盤のアジア経済危機のケースとは特徴が異なるそうです。
ちなみに、非正規雇用者の数が減っているのも「宿泊業や飲食・サービス業には非正規雇用者が多いため」とのこと。先生はこうした現状から「今後は一定の業種と非正規雇用者に向けた経済対策が経済成長回復、雇用促進のポイントになる」と語ります。