10倍速く書ける超スピード文章術
1時間で3,000字、5日間で本1冊を書き上げるという上阪先生は、もともと文章を読むことも書くことも苦手だったと言います。しかし、なぜ文章嫌いだった先生が爆速ライターになれたのか?
ここでは、「仕事の生産性が高まる、誰でも使える爆速ライティング術」についてご紹介していきます。
※「10倍速く書ける超スピード文章術」
https://www.amazon.co.jp/dp/4478102449/
上阪 徹 先生
ブックライター
田原 彩香
受講生代表
2018.07.23
上阪 徹 先生
ブックライター
田原 彩香
受講生代表
私は1966年に生まれまして、フリーランスになって24年になります。
この間に、雑誌やウェブサイトのインタビューなど、いろいろな書く仕事をしてきました。今の主な主戦場は本になっていまして、著書は30冊になります。
自分の本を書く他に、他の方の代わりに本を書くという仕事もしています。たとえば経営者の方、スポーツ選手や政治家の方などです。
そういった方はお忙しいですから、私が代わりにインタビューをして書きます。この仕事を「ブックライター」と命名しまして、そのブックライティングの本が70冊くらいあり、合わせて100冊くらいの本に関わってきました。
書く仕事をする前、実はキャリアのスタートはアパレルメーカーの営業マンをしていました。当時は書くことは大嫌いで、文章を書くのが苦手だったんです。
今ブックライターという肩書きですが、先生も書くことが苦手だったんですね。苦手な人でも書けるようになるということでしょうか?
全然問題ないですね。
実は先生はむかし1日300字しか書けなかったそうです。それが今では1時間で3,000字、さらに5日間で本を1冊というペースで文章を書ける爆速ライターへと変貌を遂げられた上阪先生に、超スピード文章術について学んでいきます。
今日書いていた原稿が、某コンピュータ系の会社の原稿だったんですが、今や全仕事のうちの3割がメールだったりするそうです。
仕事のうちの3割がメールを打つことに当たってしまうんですね…。
要は書いている仕事、メールだけで全体の3割ということです。
1日メールの返信だけで終わっちゃったりとかありますよね。
そういった方もけっこう多いと聞きますし、午前中はメール対応に当てているとか、メールを書くのにとても時間がかかって、残業をせざるを得なくなった、なんて声も聞きます。
でも実はメールだけじゃなくて、レポートや、企画書、プレゼン資料、あとPRの記事とか社内報やら営業日報やら議事録やら、とにかくパソコンに向かって書く仕事が、今は仕事の大部分を占めてきつつあると思うんです。
ですから、書くことを速くすることができれば、当然仕事の生産性が上がって仕事が早くなりますよね。
つい最近ですけど、「1本のメール書くのに15分」という記事を書きましたらバズりまして、やっぱり悩んでいる人が多いみたいですね。
15分ってけっこう長いですね。
長いですけど、でもやっぱりかかってしまう人はかかってしまうみたいですよね。
それだけビジネスにおいては書くことが求められていると言いますか、そこから逃げることはできない。ということですね…。
僕の場合、月に1冊書いていて、かつその他にもインタビューの仕事がありますので、月間で15万文字くらい書いているんです。
15万文字をこなさないと月の仕事が終わらないので、要は速く書かないと仕事が回っていかないんです。
つまり、速く書かざるを得ない状況になっていると。では、なぜそんなに文章を書くのに時間がかかってしまうのでしょうか?
これはぜひ知っておいてほしいのですが、当たり前なんです。
当たり前。誰もがかかってしまって仕方がないということですか?
時間がかかるというか、書けなくて当たり前なんです。書けると思っていること自体間違っていて。というのは、なぜかというと、誰も教わっていないんです、書き方を。
ビジネス文書の書き方は習ったことがないということでしょうか?
田原さんは習ったことありますか?
会社で簡単に教えてもらうことはあっても、文章の書き方までコミットした教え方はないと思います。
ないですよね。習っていないので書きようがないんですけど、一生懸命みんな何かをまねして書こうとするんですけど、だから困ってしまうことになっていて。
そして、書くときに邪魔しているものがあるんです。それを僕は「呪縛」と呼んでいるんですけど、これを取り払うマインドセットが必要なんです。
フリーを24年やっていますけど、途中で気付くんです。「あ、なんだ、こうなの。これでいいの」。と。
呪縛というのはなんでしょうか?
これは小学校の頃から植え付けられているものなんです。作文って小学校のころ以来教わっていないんです、ほとんどの人は。
小学校の頃に書いた作文ってどんなふうに教わったかというと、うまく書かなくちゃいけないとか、文法どおりに書かなくちゃいけないとか、起承転結とかセオリーどおりに書かなきゃいけないとか、点やら丸やらというルールでがんじがらめだったんじゃないでしょうか。
なおかつ、当時うまい文章といわれていたのって、優等生が書いた立派な文章だったり、評論家の書いた難しい文章だったり、文豪先生が書いた格調高い文章だった。なんですけど、そんなの今求められていますか?
そういうことなんですね。でも確かに、文章を書いたら「すごいね」って言われたいなって。
え? 言われたいですか(笑)?
でも、実は自分が文章を読む立場になって、Webサイトを読みます、あるいはメールを読みます、人が書いたレポートを読みますといったときに、文章の上手さを求めますか?
「すごいな、これうまいな、この人の文章」、なんて絶対思わないですよ。
そうですね。わかりやすかったりしたらいいなとか思うんですけど。
誰もそんなこと期待してないと思います。だから、みんな勝手にイメージを膨らませて、うまく書かなくちゃいけないという呪縛にさいなまれているんですけど、まったくいらないです、そんなこと。
僕はうまい文章を書こうなんて思ったことは一度もありません。まったくないと言い切れますね。
そういったプライドは捨てたほうがいいですね。「うまい文章を書かなくちゃいけない」というのは完全に呪縛で、そんなのはいらないんです。
わかりやすい文章があればいいんです。わかりやすい文章。まずそこの呪縛を徹底的に捨てなきゃいけないですね。
この呪縛はけっこう皆さん持ち合わせていますよね。
そうですね。それは小学校のときの作文を習って以来、ずっと書くことを習っていないからです。だから「実用的文章」と僕は呼んでいますけど、大人の書く文章を学習してきていないんですよ。
なのに、小学校の呪縛が邪魔をしてきてしまっていて、というのが非常に大きいと思っています。なので、うまい文章を書こうとしなくなった瞬間に楽になるんです。
かっこいい言い回しとか、小難しい形容詞とか、格調高いなんとか、みたいなことを探したり考えたりするのに時間がかかるんです。そんなのいらないんです。まずそんなのいらないということを頭に入れるマインドセットをしてほしいんです。
文章ってコミュニケーションの単なるツールで、全然大したものじゃないんです。なのにみんな、「文章」という瞬間に固くなっちゃって、立派なものを書かなきゃいけないって。これを捨ててほしいんです。
文章なんてたかが文章。全然大したことない。「なんだよ、それ」ぐらいな感じで思っていればいい。LINEを書くときに肩肘張らないでしょう?
肩肘張らないですね、思ったとおりに書いています。
で、速いでしょう? すぐ書けるでしょう? それでいいんです。LINEの文章でいいんです。
LINEの文章はすぐに書けるのに、どうして普通の文章になるとみんな肩に力が入ってあんなに時間がかかってしまうのか。LINEの文章でいいんですよ。
ハードルはもうちょっと下げていく感じでいいということですね。
もちろんそのままじゃないですけど、その感覚でいてほしいんです。LINEでいいんだと。そうすると一気に文章を書くのが、楽になると思います。
今回のテーマは「10倍速く書ける素材文章術」ですが、どうすれば、10倍も速く書けるんでしょうか?
僕は今では、けっこう書くのが速くなりました。本を1カ月で1冊書いていて、大体5日ぐらいで1冊書いています。
どうして速く書けているかということについて、実はずっと言語化できなかったんです。その理由がわからなかったんですね。
なんで自分がこんなに速く書けているのか、どうして他の人よりも速く書けるのか。でも、おととしの冬にわかったんです。
わりと最近わかったんですね。
つい最近です、言語化できたのは。それは何かと言うと、キーワードは「素材」だったんです。この本の「素材文章術」の素材なんですけど。
端的に言うと、「どう書くか」ではなくて、「何を書くか」が重要になるということです。
何を書くか、「内容」ということでしょうか?
HowではなくWhatなんです。どうやって書くかということではなくて、何を書くか。
つまり、その何を書くかの「何を」が素材なんです。最初に申し上げたように、文章はツールなので、道具が大事じゃないんです。
肝心なことは何が書かれているかなんです。その何がというのが素材。その素材自体が実は文章の中身の9割を構築しているんです。
じゃあ素材が良ければもうほぼ文章は完成ですね(笑)。
そういうことなんです。素材さえいいものが集まってくれば、いくらでも量が書けるし、いくらでもドキッとする内容を伝えられるし、面白い話が書けるんです。
素材がないと、なんとかして言葉をひねり出したり、考え込んじゃって書かなくちゃいけなくなっちゃうんです。
なので、素材さえあれば書くことには困りませんし、書くことがないということにもならないですし、言葉をひねり出さなくてもいいし、構成もつくらなくていいんです。つまり、僕はそれをやっていたんですね。
結局素材を意識しているから速く書けていた。じゃあ素材ってなんですかと。
素材ってなんですか?
僕は3つあると思います。それは「独自の事実」、「数字」、「エピソード」です。
すごいわかりやすいですね。
この3つを意識して、文章の「何か」を考えればいいんです。1個サンプルを見ていきましょう。
「なぜ成城石井のワインは1,500円の安さでもおいしいのか。
ヨーロッパから船積みされたワインは2カ月かけて日本に運ばれますが、冬でも30度近い気温になる赤道直下のエリアを通過することになります。
普通のコンテナで運んでいたら、内部はとんでもない暑さになる。昔はそんな状態でワインが運ばれていたのです。これがワインに影響を与えないはずがない。
その問題を解決するべく、成城石井が取り組んだのが、リーファーと呼ばれる定温コンテナ輸送で直輸入することでした。30年も前のことです。
そして、日本に着いてからも完全定温、定温管理の倉庫を建造し、ワインを保管している。24時間温度や湿度を管理し、冷気が全体にまんべんなく自然滞留される仕組みも取り入れている。
成城石井はここまでやっているのです。だから1,500円のワインでもおいしいのです」。
ということで、これで400字あります。
これは『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』という本の中に出てくる一節です。
取材をして書いた記事なんですが、僕が表現めいて入れたフレーズはほとんどないです。あとは全部事実である「素材」なんです。つまり独自の事実です。
すっきりしていますよね、すごいです。
「ヨーロッパから船積みされたワインは2カ月かけて日本に運ばれます」「冬でも30度近い気温になる赤道直下のエリアを通過する」。
これが”独自の事実”ですよね。
“数字”とは、「1,500円」「2カ月」「30度」。
”エピソード”は、「日本に着いてからも完全定温、定温管理の倉庫を建造し、ワインを保管している」。
要するに私は、この3つの素材を探りに取材に行くんです。取材に行って得た内容を並べているだけなんですね。
それでいいんですね。
はい。取材から得た情報だけで、400字の文章ができました。これを書くのに、5分かかってないです。
これ5分かからないんですか?
はい。素材があるんですもん。あとはその内容を全部並べるだけです。
なるほど。どうやって並べようかな、みたいな、「順番」はあるんですか?
基本的にインタビューで話を聞いたときに、しゃべる人は大体この順番でしゃべってくれるので、ほとんどこのまま並べればいいんです。
僕が考えたのは「成城石井はここまでやっているのです。」ここだけじゃないかな(笑)
そこにちょっと命を吹き込むわけですね。
結局「成城石井のワインは1,500円の安さでのおいしい」という話を、こうした「素材」なく書こうと思ったら、これは大変なことです。
でも取材にきちんと行かないといけないということですよね。
もちろんそうなんですけど、結局その「おいしいのか」というのを、なんとかして日本語にひも解こうとすると大変な思いをすることになっちゃうので、そんなことよりも素材に目を向けて、素材を探しにいったほうがいいと思います。
要は取材に行かなくても、Webで探せば出てくるかもしれません。「成城石井のワインはおいしい」で検索するとこういうこの内容が出てくるかもしれない。
そうすると同じ内容が書けますよね。それは素材に目を向けないと書けないということです。
要するに文章ってひねり出すものじゃなくて、そこにある事実や素材を紡ぐものだと思ってほしいんです。大事なことは素材や事実をいかにたくさん集めるかが圧倒的に大事で、つまり準備のほうが大事なんです。
書きはじめてどうしようかじゃなくて、その前にどのくらい素材、文章の内容を用意できるか。何を用意できるかのほうがよほど大事。
実は書くプロという意味でいけば一番わかりやすいのは新聞記者ですよね。
新聞記者ってやっぱり取材に行くイメージがありますよね。
新聞記者って必ずメモ帳を持っています。あれで素材を集めているんです。今はICレコーダーですよね。あれ素材を集めるためなんです。
素材を集めるために、手帳やICレコーダーを持つ。彼らはあれがなければ新聞記事は書けません。書くプロも、素材とメモをするためのツールがなければ記事が書けないんです。
彼らも、何もそのメモなしで書いてくれと言ってもたぶん書けないと思いますね。
いかに素材を集めていくかが大事になってくるんですね。
雑誌や新聞記者などの書くプロも、みんな「素材」から文章を書いているわけです。
ひねり出しているわけではないのですね。
唯一の例外は、小説家さんや、一部のエッセイストさん。あの人たちは天才です。僕は何人もインタビューしましたが、あの人たちは天才です。絶対まねはできません。
あれは本当に絞り出すということですよね。
絞り出すんじゃなくて、極論をいえば、神様が下りてきてます。あれは絶対にまねはできないので、同じようなことをしようとするからみんな大変なことが起きるんです。
違うんです。メールもレポートも企画書も同じで、どのくらい素材、独自の事実、数字、エピソードを集められるかなんです。
下りてくるわけじゃなくて、集められるかということなんですね。
それが大事なんです。メールも同じように、レポートも同じように、素材さえ意識していれば速く書けるし、ちゃんと伝わるものになるんです。
最もやってはいけないのは、素材をちゃんと集めずにゼロから書こうとしてしまうこと。ちゃんと準備できてないのに。
持ってないのに、さあ書こう、なんてすると、絶対書けないということですね。
それは書けません。僕でも書けません(笑)。
神は下りてこないんですね(笑)。
下りてきません。絶対にきません。あるいは、素材が足りないのに書きはじめてしまうこともよくないことです。
3つしかないのに、3行分しかないのに400字書こうと思ったら、それはなんとかして文章を長くしたり、紡いだりとかしなきゃいけないから。
たぶんこれは、ネタ的には1,000文字分くらいあったのを短くしているはずなんですけど。要は長ければ長いほどいいんです、たくさんネタがあればあるほど。
これを短くすればいいので、いかにたくさん素材を集めるかのほうがよほど大事なんです。
ということは、素材はあればあるほどいいということですよね。
あればあったほうがいいですね。
そこから一番大事なのを選んでいけばいいですもんね。素材を集める力が強い人って文章もうまくなりそうな予感がしますね。
そういうことです。要は新聞記者もそうですから。どんなにうまい文章を書く人よりも、誰も持っていないネタを書いたほうが読者は驚くし、スクープになりますよね。
同じことで、こねくり回して美しい文章にするよりも、知らない内容とかがあったほうが楽しくありません?
勉強になる話とか、さっき言っていたうまい文章じゃなくてためになる話とか、面白い話とかがあったほうがいいじゃないですか。全然わかりやすくていいんです。
だから、背伸びしてうまい文章を書くことを考えるよりも、圧倒的に素材を気にしたほうがいい。いかに素材を集めてきて伝えたい話にするかというほうが大事なんです。
ここからは、「素材文章術」5つのステップを教えていただきます。
大きく5つのステップになるのですが、一番大事なのは1から3番までです。ここでは5つのステップの中から特に重要な3つのポイントについてご紹介します。
1つ目は、「書く目的と読者を定める」ことです。目的と読者ってなに?と思うかもしれませんね。目的って書くことじゃないのかと。
書くその先の目的のことですか?
そうなんです。実はさっき再三申し上げたように、書くことってツールなんです。大事なことは、その先に目的があることなんです。
例えば社内報に自己紹介を書いてくださいという場合は、自己紹介を書くことは目的ではありません。
自己紹介を書くことによって、例えば社内で自分のことをわかってもらう、とか、普段は見えないプライベートな真の姿を見せる。これが本当の目的です。
文章の裏側には必ず目的があるんです。
これを「真の目的」と言っています。表面上の目的は社内報を書くこと、文章を書くことですが、真の目的は職場では見せないプライベートな姿を紹介する、ということかもしれない。ここまで踏み込んで書く必要があるんです。
例えば議事録をお願いされました、会社で。議事録をお願いされること自体は、議事録を書くこと自体が目的じゃない。
議事録の向こう側に、例えば部内で情報共有をする、かもしれないし、商品開発のための材料にする、かもしれないですし、役員が意思決定に使うかもしれない。
ここまで踏み込んで目的を考えないと、実は駄目なんです。これができたら何が起きるかというと、書くことが目的になってしまう。そうなってしまうと、書き方や表現に頭が向いてしまいます。
目的が不明瞭だと、書くことがブレそうですよね。
必ずやってほしいのは、もし文章を書くということが発生したら、文章をお願いされている発注者に、その真の目的を確かめにいってほしいんです。
社内報を頼まれましたと時は、「これなんのために書くんですか?これを書いたらどうなるんですか?」と確認する。上司に議事録をお願いされたら、ちゃんと目的を確認する。「これ何に使われるんですか?」と。
必ず確認してほしいんです。メールであっても目的があるんです。謝罪なのか、提案なのか、報告なのか。
それを頭にちゃんと描いて書くのと、なんとなくダラダラ書くのと大違いです。目的がはっきりしているので、最初の行に目的、結論が書けるんです。
余計な変な表現とかしなくて済むかもしれないですよね。
これを僕は「読後感」というんですけど、書くことが目的にならないために、相手の読んだときの読後感を意識してほしいんです。
ブログやSNSでも同じ、フェイスブックでも同じで、これを読んだ後にどんなふうに思ってほしいかということを意識することが重要です。ただ書くんじゃなくて。まずは書く目的を意識することです。
つぎに、読者です。これはさっき言った小学校の呪縛の延長上にあるんですが、小学校の作文って誰に向かって書いているかって適当でしょう。
学校の先生に書いているんでしょうか?
先生とか世の中一般みたいな感じですよね。新聞もそうなんですけど、なんとなく世の中一般みたいな。これ一番危ないんです。
というのは、僕はいつも言っているんですけど、例えば真っ暗闇で講演してくださいって言われて、しゃべれます?
怖すぎますね(笑)。
誰がいるかわかんないんです。おじいちゃんなのか、若い女の子なのか、子どもなのかもしれない。でも、読者を定めずに文章を書くってそれをやっているんです。
真っ暗闇で、そこに誰がいるかわからないで書く。それは書けないです。
読者が明確じゃないと書けないんです。営業マンがお客さんに、クライアントさんに企画提案をします。誰に向かって企画書を書くのかをイメージするだけでまったく変わるんです。
例えばいつも毎週会っている担当者と、1回しか会ったことがない上司の課長さん。1回も会ったことがない部長さん。同じ文面でいいと思いますか?
もう丁寧度が違ったりとか、変えますね。
駄目でしょう。全然違うでしょう。これ同じことで、常に誰が読むのかを意識しなきゃいけないんです。
文章を書くには、まずここからなんですね。書く目的と読者を定める。
もし読者がはっきり決まらなければ、勝手に決めてしまえばいい。
でないと、誰に打っていいかわからない、暗闇の講演と一緒なので、つらいですよね。で、書く目的と読者を定める。そこから始まります。
では続いて2つ目のポイント。それが「素材を集める」ということになるんですよね?
とても大事なところなんですが、「真の目的と読者が定まると、素材が集めやすくなる」んです。
そうですね。目的と誰にというのがわかったら、そのためのものを集めればいいということですよね。
そうなんです。逆に言うと、真の目的と読者が定まっていないと、どんな素材を集めていいかわからないんです。
誰がその会場に座ってるかわからないのに、何を言おうかなって探せませんよね。よくその話があって、化粧品について書いてくださいという要望が来ましたと。あまりに漠然としていますよね。
化粧品のなんなのかって感じですね。
ここで読者と目的を定めてみましょうか。読者は20代の女性。目的は、アレルギーの啓蒙。こうなったら、いっぺんに素材がイメージできません?
視界が広がってきますね。
こういう話を書けばいいのかなとか、こういう人に話を聞きに行こうかなとか、Webで調べようかなとか。でも「高校生に向けて5分でワンポイントメイク」となったら、まったく違う連想ができますよね。
「小学生に向けて化粧品のお仕事」だったらどうでしょう。
同じ化粧品について書くといっても、書く目的と読者でまったく内容が変わってくるわけです。
逆に言うと、この目的と読者をしっかり定めておくと、何を書けばいいのかがはっきり見えてくるということです。
ターゲットは、できるだけ絞れば絞ったほうがいいんですか?
絞ったほうがいいですね。できるだけ絞ったほうがいいです。
かつて僕は、週刊誌の連載で著名人のインタビュー連載というのをやっていまして、毎回毎回いろいろな方が出てきて、その記事を書くんですけど、毎週毎週出てくる人によってターゲットを変えていました。
それは、自分の友人の顔を思い浮かべて、今日はこいつに書いてやろうとか。例えば笑福亭鶴瓶さんの話を聞きたい人と、カルロス・ゴーンの話を聞きたい人は違うでしょう(笑)。
だから、ターゲットを変えるんです。そうすると、ターゲットを変えた瞬間に、なんの話をしてあげればいいかが見えてくるんです。
だから、本当は世間一般に書いたほうが良かったのかもしれない雑誌の記事だったんですけど、思いっきりターゲットを絞ったことによって、刺さる人にはすごく刺さる。
で、支持がすごく高まりまして、後にそれが1冊の本にまとまって、40万部ぐらい売れたんです。だから、絞れば絞ったほうがいいですね。
人間力とかも上がりそうですね。そうやってちゃんと明確にしているとわかりやすいのかなと思います。
ターゲットの絞り方を知りたいです。絞れず苦戦しています。
それはその目的は何かということをはっきりさせることです。
なんのためにこの文章が発生するのかということを考えたら、おのずから、これは誰に読ませるべきなのかというのがわかるはずだし。
逆に言うと、誰に読ませるのかがない文章ってたぶんないんだと思うんです。
生きた文章にならないわけですね。
さっき申し上げた、例えばPR文を書いてくれと会社にお願いされました。プレスリリースを。そのときも、会社からはターゲットとは言われてないけど、つくっちゃえばいいんです。今回は25歳の女性にしようとか、37歳の女性にしようとか。
そうすると、一気に書きやすくなるんです。これがないと書きにくいというか、時間もかかります。
書きやすくなるためにも、ターゲットを絞ることが大事なんです。絞る方法というよりは、絞っちゃえばいいんです。今回はこの人に決める。
身近な人の顔を思い浮かべるとわかりやすいかもしれないですね。
これは大正解だと思います。
僕自身も、昔身近な人の顔を思い浮かべて書いていましたけど、なかなかターゲットをイメージしにくいので、この話はああいうふうにしてあげようとか、彼にしてあげようとか、あの人にしてあげようというのはとてもいいと思います。
文章を読んでいると著者の人柄を感じることが多いです。ブログも同じですね。
そうですね。ブログも実は同じですね。ブログも毎回毎回ターゲットを変えて書いてもいいと思います。今回はこういう人に読んでほしいとか。
そうしないと、世間一般にベタッと、なんとなくあるようなないような、みたいな。そういうブログがあるでしょう?
そうですね。それ私かもしれないですね(笑)。
それを誰かにフォーカスを当てて書いた瞬間に、すごく尖るものになるんです。
尖るものって人は気になるんです。なんか俺ターゲットじゃないけど気になるなっていう文章のほうがたぶんよっぽどいいので。
刺さらなかった場合も気になるというのもあるんですね。
そういうこともあります。アンチをつくっても別に構わないと思います。逆にそれはちゃんと心に残る文章なのかと。
とにかくそうすることによって、素材が見つけやすくなるんです。素材が見つけやすくなるために、読者とターゲットと目的を考えると。
ここで言っておきたいのは、文章を書くうえですごい危険なワードが1個あるんです。
危険なワード。それは聞いておきたいですね。
「面白い」です。
「面白い」というワードは書いちゃいけないんですね?
書いてもいいんですけど、あなたにとって面白いことが読者にとって面白いわけではないということを認識しなきゃいけないんです。
だから、みんな文章を書くときに、俺が面白いと思ったからお前も面白いと思ったろうと思って書くんです。
経営のマネジメントスキルは、経営者は興味がありますけど、新入社員は関心ないですよね。
面白くないかもしれないですね。
メカ好きの機械大好きな男の子が好きなものを、文系の人はまったく興味ないし。映画好きな人がものすごく大好きな映画って、映画見ない人は興味ないし。
つまり、面白いってすごく難しいんです。
面白いは書くんじゃなくて感じるものっていう感じですか?
面白いということを謙虚にならなきゃいけないです。
いろいろな面白いがあって、だからこそターゲットを意識して、このターゲットにとって面白いはなんなのかというのを常に考える。
自分が面白いじゃなくて、相手が面白いかどうかということを常に意識しなくちゃいけないです。
相手を意識するということですね。
素材集めに関してですが、小説家の人も実はけっこう取材しているんです。小説家の先生も取材をしている人もいます。
小説家が取材をしていると。それをもとにして書いているわけですね。やっぱり素材集めというのは、文章を書くには本当に基礎的なことと言いますか、絶対必要なことなんですね。
でも素材集めをしなくても書ける人もいるんです。
それは天才ですね。
天才ですね。作家さんでもインタビューする人はいますし、基本的には自分の中から出てくるものってそんなにあるものじゃないので、素材は外にありますから。
相手を意識するんです。これがとても大事なことで、目的と読者で設計をして、素材を集めていくんですけど、そのときに1個大事なことがあります。みんな簡単に集めようとするんです、素材を。
手軽に集めちゃ駄目なんですか?
手軽に集めてもいいんですけど、一度に集めない。
私一度に集めようとしてました。
駄目です。できれば、書くことが決まっているんだったら、早い段階から素材に頭を巡らせておくんです。
常にということですか?
こういうのを書かなきゃいけないって。もちろんすぐに出てくる素材もありますが、時間があればあるほどたくさん素材は出てくるので、長い時間をかけて素材を見つけるぐらいの意識を持っておいたほうが絶対いいです。
じゃあやっぱりメモ帳を常に持っていた方がいいのでしょうか?
そうです。とにかく大事なことは、メモを取ること。記録を残すこと。僕はiPhoneのメーラーの下書きにいろいろなメモを放り込んでいます。
電車の移動中とか何かの空いた時間に、どんどん何週間もかけて埋め込んでいくんです。とにかくメモることが大事。というのは、人間は忘れてしまうからです。
そうですね。メモらないと、残さないとですね!
これは実はある大学の先生に直接お聞きしたんですが、人間は忘れるようにできているんだそうです。
太古の昔、人間はジャングルで暮らしてして、今もそのDNAは変わっていないらしいんですけど、ジャングルで暮らしていると方々からオオカミは来るわ、ヘビは来るわ。
そうすると、自分の身を守る、命を守るためには、常に神経を研ぎすませておかなきゃいけないんです。脳みその容量を常にゼロリセットするんです。つまり、何か入っていることは全部忘れないといけないんです。
入らないわけですね、新しい情報が。
忘れてしまうので、とにかくメモる。とにかくなんでもメモる。素材になりそうなことはとにかくメモるんです。これは、どんな文章でも同じです。
たとえば、小学校の授業参観のレポートを300字、学校に出さないといけない。どんな人が来てるかとか、どんな表情してるかとか、子どもがどんな発言をしたかとか、教室の後ろに何が飾ってあるかとか、全部メモるんです。
メモっておいたら、これは素材ですから。
もう素材集めができたわけですね。
300字なんて余り余るくらいネタがあるわけですから。同じように、どんな文章、大事なメールも、速く書かなきゃいけないことがわかっているんだったら、素材を探しておけばいいんです。
ブログも用意しておけばいいんですよ。街で見つけて、あ、これ気になったと思ったら、すぐにメモしておく。書かなきゃいけないレポートやなんやも、全部メモしておく。
メモから全ては始まるんですね。
メモから始まります、とにかくメモから。ある特定のテーマの素材がワーッて集まってくると、その集まってきたネタを見ているだけで、連想ゲームのように、あ、これもあった。
一人ブレストと僕は言っているんですけど、浮かんでくるんです、次々に。だから、どんどん使うか使わないかは別にしても、素材をたくさん出していく。それが大事なんです。
それが素材を集めるということですね。ということで、2つ目のポイント、素材を集める。とにかくメモをするということでした。
そのメモが集まった後は「組み立てる」ですね。
素材を組み立てる時ですが、僕はたくさん集まった素材を、全部書き出します。
それは文章にまったくなっていなくていいので、殴り書きでも、箇条書きでもいいのでワーッと見える化します。素材を見える化するんです。
とにかくいけないのは、素材が足りないことです。とにかくたくさん出す。じっさい、僕はいつも文字量オーバーしちゃうぐらいたくさん素材を集めています。
多めに書いて削るぐらいが一番いいので、バーッと集めて羅列します。さきほどの成城石井の原稿もそうです。情報をバーッと羅列する。
羅列した後、ここもまた文章の呪縛が待っているんですけど、起承転結とかいうことを考えはじめるとおかしくなるんです。
考えます。駄目なんですか? 考えちゃいけないんですか?
まったくなんの意味もないです。だって読み手は起承転結なんて気にしてないんです、誰も。
気にしないですね、確かに。書くときに気にしますけれども、読んでいるとき何も考えずに読みますよね。
そんなことより、カフェで目の前に想定したターゲット読者が座っているとすれば、羅列した素材をどんなふうに並べてしゃべるかを考えるんです。
どういう順番でどんなふうに話をしていくか。さっきの成城石井の、これ。これは成城石井の素材なんですけど、これをバーッと並べたときに、どうやって伝えてあげたら読者に最も伝わりやすいか。
このときは30代ビジネスマンをイメージしていたんですけど、どんなふうに伝えてあげれば、成城石井のワインがいかにおいしいかを伝えてあげられるかを、カフェで目の前に座っていたらどうしゃべるかによって構成を組んでいたんです。
じゃあもうしゃべるイメージで組み立てちゃっていいんですね。
文章はあくまでツールです、道具です。その意味では、しゃべりでもいいわけです。目的は、「この話を相手に理解してもらうこと」なので。
ですから、文章の起承転結なんてどうでもいいです。でも、実はカフェで目の前でしゃべるとなると、意外にみんなロジカルにしゃべるんですよ。
みんな気付いていないですが、しゃべるときは意外にみんなロジカルで、しかも対象に合わせてきちんとしゃべるんです。
例えばそこに10歳の子どもがいたら、10歳の子どもなりの話をするし、同級生なら同級生、10歳上の先輩なら先輩、年配者なら年配者。
ちゃんとこの方がどういう方なのかを認識しつつ、このことは知らないよね、じゃあこの前提からしゃべっていかなきゃとかってしゃべっていくんです。これでいいんです。
カフェでターゲット読者がいるとして、真の目的を完遂するために、どんなふうにどんな順番でしゃべってあげると一番伝わるのかということを考えるだけでいいんです。
書くことは時間がかかると思い込んでいるように思えます。書くことは面白いんですね!
はい、面白いんです。ナイスな意見ですね。ぜひ知っておいてほしいのは、楽しく書いてない人の文章は楽しくないということです。
書き手が面白がっていないと絶対面白くないので、これはすごく大事ですね。
面白がって書かないといけないですね。カフェで自分のした話って、面白いから話しているんでしょう。伝えたくて。「面白かったのよ、これが」っていうのが文章に出てないと、誰も読んでくれないし、誰も面白くないです。
伝えたい、という気持ちがないといけない。それを忘れずに、恐れず文章と向き合っていただければと。
"面白いということに謙虚にならなきゃいけない。”
"自分が面白いじゃなくて、相手が面白いかどうかということを常に意識する。”
これは、文章を書くときだけでなく、企画することや人間関係にも通ずることでしょう。なにをするにも、すべては、相手あってのことですから。
最近では、「好きを仕事にする」人も増えてきていますが、その代表格であるユーチューバーやインスタグラマーなども、「自分が面白い」かつ「人も面白い」領域を見つけて活躍しているんだと思います。
そうした「好きを仕事」にしたい方に向けた記事もありますので、ぜひ、こちらもご覧になってください。きっと参考になるはずです。
・ブランドとは、“とんがり”である。 フリーランスで生きていくための「セルフブランディング」術とは?
https://pencil.schoo.jp/posts/19q6Ara7
・“家族がいるから、フリーランスがいい”ーー立派なキャリアがなくてもフリーランスとして稼ぎ続ける方法とは?
https://pencil.schoo.jp/posts/eJWGKWog
今回ご紹介した上阪徹先生の著書
「10倍速く書ける超スピード文章術」
https://www.amazon.co.jp/dp/4478102449/
〈編集/ 青野祐治〉
https://twitter.com/yuji_blfd
2018年07月23日 公開
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先生はこれまで、どういったキャリアを歩まれてきたのでしょうか?