A or B に解を出す「仮説検証の学び方」
目次
- 仮説検証の3つのタイプとは
- オススメの勉強法1:ラーメン屋で仮説検証
- オススメの勉強法2:疑い深くなるモードを作る
今回はデータとグロースのスペシャリストである樫田光先生にご登壇いただき、仮説検証の勉強法について教えていただきます。樫田先生によると、日常生活の身近なことからでも仮説検証力を鍛えられるそうです。早速学んでいきましょう。
樫田 光 先生
Growth Camp 代表取締役
2021.08.30
樫田 光 先生
Growth Camp 代表取締役
一つ目は「原因に対する仮説検証」です。なぜ起こったのか、「なぜ」を追究する仮説検証ですね。このタイプの仮説検証は、事象が起こったことはわかっているのですが、その原因がわからない場合です。
例えば、みなさんが仕事から家に帰ってきてキッチンの電気をつけたら、キッチンがめちゃくちゃに荒れていたという事象があったとしましょう。「キッチンが荒れている」ということが事象です。ではこの事象がなぜ起きたのか、気になりますよね。
なぜキッチンが荒れているのか、納得して理解しないと毎日安心して過ごせません。もし次の日に帰ってきて、またキッチンが荒れていたらどう防げばいいかわからないですよね。なので納得感を持って、この原因を追究していくことが大事だとわかると思います。
仮に理由を「飼い猫がキッチンを荒らしていたから」だと考えます。そこで床を見てみると、猫の足跡が点々と続いている。ここで初めて原因は猫だったと納得します。これが原因に対する仮説検証です。原因がわかれば、キッチンが荒れるのを防ぐために柵を設けるなど、いろいろ対処できそうですよね。
二つ目は今お話しした仮説検証の逆で、「結果に対する仮説検証」です。ある事象が発生した結果として、何が起きるのかが分からない状態についての検証です。
例えば、スライドにあるように、この猫は前につんのめっている状態です。これが事象です。その結果何が起きるかを推測し、探りに行くというのが「結果に対する仮説検証」です。
もしかしたらこのままこの猫は前に転んでしまうかもしれません。「猫は前に転んでしまう」という仮説を立てれば、猫が転ぶ前にクッションを用意するなど対策ができます。
三つ目は「状態に対する仮説検証」です。これは少し特殊なのですが、事象そのものが隠蔽されていてわからない。つまり「どうなっているのかがわからない」ということに対する仮説検証です。
例えばビジネスシーンでいうと、部長が「売上どう?」と聞いてきたとします。「売上」という事象がどうなっているかわからない状態です。これは「売上の調子が良いといいな」という部長の仮説があり、それを検証したいから質問しているということです。つまり、一つ目や二つ目の仮説検証と違って因果はあまり問われていません。
仮説検証の3つのタイプ、おわかりいただけたでしょうか。
仮説検証の考え方を鍛えるためには、とにかく日常生活でも考えてみることが大切です。今回はそのための3つの思考法をご紹介します。
例として「こってり脂身ラーメンで売上増」の謎を考えてみましょう。そのラーメン屋は普段醤油ラーメンを売っていたのですが、ある時からこの「こってり脂身ラーメン」を発売しました。すると売上が伸びていきました。
こういう状況をラーメン屋に行ったら自分で勝手に考えてみます。ここで仮説構築が必要になりますね。「こってり脂身ラーメンの売上が伸びた」という事象があるときに、この現象が起きた理由は何なのか、という仮説を考える。
その原因はこってり脂身ラーメンが絡んでいると考えられますが、「絡んでいる」だけだと具体性がないですよね。ではどのように絡んでいるのか、考えてみます。これが日頃からできる仮説構築の鍛え方のひとつです。
仮説を立てる上では、「3種類のアプローチ」をバランスよく使い分けるのが理想です。一つ目は論理的アプローチ、二つ目は経験的アプローチ、三つ目はデータ探索的アプローチです。
一つ目の論理的アプローチは、言葉通り論理的に理詰めで考える方法です。これはよくビジネス書に書いてある、構造力や分解力という力が重要です。
例えば「脂身とは何か」という問いを立てます。論理的に考えれば「脂身 = 食べ物である」という考え方が成り立ちます。言葉通り「論理的」な考え方ですね。
次に「食べ物」と言っても論理的にはいろんな捉え方がありますが、ここでは「食べ物=五感で楽しむ」というフレームワークで考えたとします。五感には味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚があります。
最も単純な仮説として、脂身=味覚の要素によって売上が上がったと考えることもできますよね。
ですが、例えば嗅覚の観点はどうでしょう?味云々ではなく、脂身を厨房で使うことで、ラーメン屋の排気口から脂身のいい匂いが漂うようになり、その脂身の匂いに吸い寄せられるようにラーメン屋に入っていって、客足が増えて売り上げが伸びた....こんなストーリーも考えられます。
視覚はどうでしょうか?こってり脂身ラーメンの方が見た目が派手で、普通のラーメンよりもSNSにアップしてシェアしたくなったのかもしれませんね。
それを見た人がお店に来てくれたから売り上げが伸びた。こういう考え方もできます。このように直感的には考えづらいような可能性の低いものでも、考えられる仮説の幅を広げてくれるのが論理的アプローチです。
二つ目は経験的アプローチです。これは人間の経験的にパッと思いつく仮説を集める方法です。例えば自分が夜中にTwitterでがっつり系のラーメンを見て食べたくなって、ラーメン屋に行った経験があるから、それが原因ではないかと考えた場合、これが経験的アプローチです。
経験的アプローチの場合は詳しい人やに聞いたり、色んな人に幅広く聞いたりすることが大切です。自分の経験だけでは足りないことが多いので、いろんな視点から仮説を出してもらいましょう。
例えばWeb開発をしている場合、エンジニア、マーケター、ディレクター、テストエンジニア、データアナリスト、それぞれ考える視点が違いますよね。エンジニアはバグが起きないか考えますし、マーケターは競合やSEOを考えます。
仮説に幅を出すためには一人でやるよりも複数でやった方がいいので、僕はデータ分析をやるときは自分一人で論理的アプローチと自分の経験アプローチを考えた上で、周りの人にヒアリングして回っていろんな仮説を立てるようにしています。
三つ目は、データ探索的アプローチです。手元のデータを基に分析して仮説を立てる方法です。ラーメン屋の場合は手元にデータがあることは少ないと思うので、「以前より女性のお客さんが増えた気がする」「年齢層が変わっている気がする」などの自分の気づきで構いません。
「女性客が増えたということは、こんなことが起きている可能性がある」といったような感じで考えます。データ分析をして直接的な仮説を立てるというよりは、あり得る仮説の幅を狭めたり、より論理的に前に進めることができると思います。
僕はこれらの3つのアプローチを実務でもそうですが、日常生活にも取り入れることによって仮説検証力を鍛えています。
一つ受講生の方の質問に答えていきたいと思います。
「筋の良い仮説を立てる人とそうでない人がいるように思います。その違いはどうして生まれると思われますか?また筋の良い仮説を立てるには、どのようなことを意識するといいでしょうか?」とのことですね。
ドメイン知識に精通していたり、その領域に身をさらしているかが大事だと思います。ラーメンであればラーメン屋に毎日通っている人は、どうやったらラーメンが売れるかということに関する仮説構築力があります。
それに加えて、その人が持っている論理力がかけ合わさって違いが出てくると思います。例えば日常生活から「AだったらBだな」と仮説を自分の中にストックしておける人は、そもそも仮説構築力が高いです。
なのでまずはその領域に身をさらしているかが大切で、かつ普段から自分の中に論理や仮説をストックできている人は筋の良い仮説を立てられるのだと思います。
それでは次の話題に移ります。仮説検証力を鍛えるもう一つの方法は「疑い深くなること」です。疑い深いのは一般的に少しネガティブなイメージがあるかもしれませんが、仮説検証においてはすごく重要です。なので、意識的に疑い深いモードになれる自分を作ると良いと思います。
「疑い深い」とはどういうことなのでしょうか?僕は自分自身で仮説検証のプロだと思っています。僕の友人がTwitterで、間違えてペットのオヤツを自分のオヤツとして買ってしまった経験があるかアンケートを取っていました。
結果、犬用のオヤツを買ってしまった人が8%、猫用のオヤツを買ってしまった人が7%、そんな経験はないという人が85%でした。
このアンケートは単に、15%の人がペットのオヤツを自分のオヤツとして買ってしまった経験があって面白いというだけのものなのですが、僕はこれを見た瞬間に「これは正しいのか?」と即座に疑問を持ちました。
何を疑問に思ったのかというと、「犬や猫がTwitterのアカウントを持っていて、自分のオヤツを買っていたらどうするの?」と瞬間的に思いました。もちろんこんな話はあり得ないのですが、もしこういうことがあり得た場合はこの仮説検証の意味を失いますよね。
このように少し意地悪な視点で疑り深くなって、「この仮説検証はこうだけど、そうじゃないケースも考え抜く」というのが僕の言う「疑り深さ」です。なのでみなさんにやって欲しいのは、誰かが何か論じていたら「それは本当なのか?もしこうだったらその仮説検証は意味を失うな」という思考をすることです。
なぜ疑り深くなることが大事なのかをお話ししていきたいと思います。ある人が「警察がたくさん配置されている街ほど犯罪が少ない」という仮説を立てていたとします。実際のデータを警視庁で調べてみたところ、むしろ逆で「警察官が多く配置されている街ほど犯罪(検挙率)が多い」ことがわかりました。
なので、仮説は間違っていて、「警察官はむしろ犯罪を増加させる」という検証結果を導き出しました。
確かにこのデータだけを見ればそうなのですが、これは疑うべき事象です。警察官がいるから犯罪が起きているのではなく、犯罪が多い地域に警察官が多く配置されているので、因果関係が逆です。
このように検証としては論理が成り立っていても、「本当にそうなのか?」と疑うセンスが重要です。
もう一つ例を挙げてみましょう。今度は「野球の先攻と後攻で有利不利がある」という仮説を立てた人がいたとします。これを試合数の多いメジャーリーグのデータを基に検証してみました。すると後攻チームの勝率が55.9%、先攻チームの勝率は44.1%厘ということがわかりました。
なので 「野球では後攻が有利」という検証結果が出たことになります。
本当にそう言えるでしょうか?これに関しては実は野球に関する知識をちゃんと持っている人でないと出てこない仮説が強く関わっています。野球の世界では自分のチームのホームグラウンドで野球をする場合、基本的にそのチームが後攻になるらしいです。
なのでこれは先攻後攻という話以前に、後攻のチームはホームグラウンドで試合をすることが多い。ということは「ホームでする試合は勝ちやすい」という別の因果関係が見えてきますよね。
これはドメイン知識がないと疑えないタイプの仮説検証でした。そういう意味では仮説検証は難しいです。また、数字やデータだけでは検証しづらいものもあるので、疑り深くなってほしいと思います。
ぜひ、今日紹介した2つの勉強法を通じて仮説検証力を鍛えてみてください。
2021年08月30日 公開
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早速ですが、ビジネスにおける仮説検証についてお話しします。僕の考える仮説検証は、3つのタイプに分けられます。