目次
- 東京オリンピックの経済効果は2兆円規模の大失敗!?
- そもそも、経済効果は実在するのか
2021.08.02
異例の大会となった「スポーツの祭典」、経済への影響は!? 経済学者が考える"本当の経済効果"
毎回、経済に関する最新のニュースを取り上げ、経済学者・田中秀臣先生に解説していただく『田中秀臣の最新経済ニュース』。第38回目のテーマは「東京オリンピックからポストコロナ経済までを考える」です。
実は、本授業が生放送された7月23日はオリンピックの開会式が行われていました。さまざまな課題を抱えながらも開催された東京オリンピック。今大会は、日本の経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか？
東京オリンピックの経済効果は2兆円規模の大失敗!?
そもそも、経済効果は実在するのか
ただ先生自身は、経済効果そのものに疑問があるとのこと。授業内でも「東京オリンピックに限らず、経済効果は実在するのか」について触れています。先生はなぜ、このような疑問を持っているのでしょうか。その理由を示したスライドがこちら。
先生はまず「差し替え効果が起きているから」と語ります。ここでいう差し替え効果とは、他への支出額を減らし、その分をオリンピック関連の支出に回すこと。確かに新たに支出を増やさず、他からお金を回すだけであれば総支出額は変わりません。よって経済効果もプラスマイナス０であり、オリンピックによる経済効果は生まれないのではないかと考えられるのです。ちなみにこの考えは、近年のビッグイベントの経済効果について研究する、多くの経済学者の共通合意でもあるとのこと。
また先生は、オリンピックのために建設された会場、舗装された道から生み出される「建設投資効果」についても以下のように言及します。
「オリンピックが終わっても、新しい会場や舗装された道はずっと使われますよね。ですから、これらをオリンピック固有の経済効果として勘定するのは難しい。単なるインフラ整備なのだから、もっと長めの投資として考えて勘定するべきなんじゃないかな」
さらに先生は「そもそも景気にオリンピックは関係ない」とも語ります。「通常の経済・金融政策によって完全雇用が達成できれば景気が良い、達成できなければ景気が悪いという話だから」だそう。先生が経済効果そのものを疑っているのは、このような理由からだったのです。
本授業では他にも「経済面からみた、バイデン政権誕生から半年の評価」や「菅政権はどうなるか？」といったテーマについても触れられます。どちらも今後の日本経済に影響する可能性の高いテーマばかり。
経済のプロ、田中先生は2020年1月に発足したバイデン政権の経済政策をどう評価するのでしょうか。また、菅政権の今後をどう予測し、現政権への批判に対してどのような考えを抱いているのでしょうか。 こちらも併せてチェックしてみてください！
文＝トヤカン
- 今回取り上げたSchooの授業はこちら！
- 『東京オリンピックからポストコロナ経済までを考える』―田中秀臣の最新経済ニュース・2021年7月号 第2回―
今日の生放送
授業の冒頭、田中先生が取り上げたテーマは「東京オリンピックの経済効果について」でした。一般的にオリンピックは、開催国の経済にプラスの効果を生み出すイベントとして考えられていますが、今大会は新型コロナウイルスの影響などもあり、いままでの大会とは異なる面が多いのが特徴です。先生も「今大会に関する消費や投資が日本経済・都の経済にどう影響するかについては、経済学者のなかでも意見が割れている」と語ります。
その一例として挙げられたのは、『WSJ（ウォール・ストリート・ジャーナル）』の記事。以下のようなタイトルだったとのこと。
“東京五輪、2兆円規模の大失敗に 経済効果と世界の評価を期待した日本、コロナ禍の開催に国民の不安強く”
先生の推測によると、ここでいう「2兆円規模」とは東京都が出した予算の額だそうです。また「大失敗」とは、予算が膨大したにもかかわらず、それに見合う収益がないという点からきているとのこと。
しかし、先生は「WSJの発想は、経済学の標準的な見方として疑問が残る」と語ります。なぜなら、都が出した東京オリンピック関連の予算は“総需要創出”（わかりやすくいえば東京都の人たちの使えるお金）として扱われるためです。
つまり、WSJの記事にある「2兆円規模」のお金は総需要創出であり、東京都の総需要は増えるはず。先生も「標準的な見方をすれば、オリンピックによって都の総需要は増え、経済もプラスにはたらくと考えるだろう」と語ります。