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2023.03.14

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江戸時代は“数学がブーム”に。楽しく学び直すための「数学歴史学」

江戸時代は“数学がブーム”に。楽しく学び直すための「数学歴史学」

大人になってから勉強をやり直したいと思った経験、だれもが一度はあるのではないでしょうか。特に「数学」は学生時代に挫折して以来、手を付けられずにいるという人も少なくありません。

元公立中学校教諭で、公益財団法人日本数学検定協会認定プロA級数学コーチャーの中島隆夫さんが講師を務めた「おとな数学塾〜中学数学を楽しく学びなおす〜」をもとに、まずは「歴史」の観点から数学を学び直していきましょう!

目次

  • 江戸時代、数学は庶民の「娯楽」だった
  • 現代人は数学を「楽しむ時間」が少ない
  • GPSも「ピタゴラスの定理」からできている

 

江戸時代、数学は庶民の「娯楽」だった

 

 

江戸時代の数学は「農業、商業、土木建築」など実用的な用途に用いられる一方、「華道」「茶道」といった習い事の一種としても活用されていました。

 

同時に、なぞなぞやクイズのようにゲームとしても親しまれていました。数学は庶民にとって「娯楽」でもあったのです。 例えば渡し舟での移動の際、船が来るのを待つ間「誰か『算術』の本を持っていないか」という声が上がり、みんなで数学の問題を解いて時間を潰すといったエピソードもあるそうです。

 

数学がすでに発展していた諸外国では、一部の進んだ人のみが実践していた例が多く、庶民の「趣味」として数学が存在していた江戸時代の日本の状況は世界でも珍しかったそうです。

 

さて、江戸時代にベストセラーとなり、数学人気を支えた算術書『塵劫記(じんこうき)』をご存じでしょうか? 「塵」は極小、「劫」は巨大な数を指し、実用的な数学とともに楽しい挿絵のついたクイズのような問題が多数収録されていました。『塵劫記』は当時、十返舎一九の小説「東海道中膝栗毛」以上の人気があったといわれ、ある種の”数学ブーム”が起きていました。

 

その中には、例えば桶に満たされた油を、容量の異なる枡を使って半分ずつに分ける方法を問う、といった生活に根差した問題があったそうです。 また、神社や寺院に奉納する絵馬に数学の「問題」を記載した「算額(さんがく)」も多数流通していました。これは神仏に奉納する時に、ほかの数学者に見てもらう目的があったといいます。

 

江戸時代の「数学者」は一部の特権階級に限られません。大阪の総持寺(そうじじ)というお寺に掲げられた算額には「魚屋平七、油屋清兵衛」など庶民の名前も多数記載されていました。また年齢や性別の障壁もなく、11歳の少年や女性の名前が書かれた算額も存在するほど、数学は庶民の生活に浸透していました。

 

 

現代人は数学を「楽しむ時間」が少ない

さて、江戸時代に興隆を深め、日本人のDNAに根付いているといっても過言ではない数学(算術)。それにもかかわらずなぜ今、数学につまづき、苦手意識を持つ人が多いのでしょうか。

 

その理由に「抽象性」が挙げられます。割り算や足し算はすんなりと理解できたのに、中学、高校と進むにつれて分数、文字式、関数など抽象的な概念が増加して理解することを放棄してしまったという人は多いでしょう。 その対処法は「具体的なイメージづくり」です。例えば文字式(文字を使って関係性を表した式)であれば文字に数値を当てはめて問題を解きながら理解するのが効果的です。

 

また、単純化したり図をかいて考えたりするのも良いでしょう。 もちろん、理解の速度には個人差があります。しかし、理解の速さと深さは異なり、時間をかけた方が深く理解できる場合も多いはずです。江戸時代に数学を楽しめた理由の一つに労働時間が短く、人々が数学にかけられる時間が多かったという側面があったと言われています。

 

学生時代、受験という目標に向けて私たちが数学にかけられる時間は限られていました。だからこそ、大人になってからじっくりと一つの問題に時間をかけて取り組むことで魅力を再発見できる可能性があるかもしれません。

 

 

GPSも「ピタゴラスの定理」からできている

あらゆる学問と同じく、数学にも歴史があります。そしてその発展には時代の様相が反映されているのです。 例えば「対数(例:〇を何乗すれば△になる)」は大航海時代に計算を簡素化したいという目的から考案されました。そして現在では放射性元素の崩壊にまつわる計算などより高度な目的で活用されています。

 

ここで、有名な「ピタゴラスの定理」について考えてみましょう。これは、直角三角形の3辺の長さに関する関係を示す定理(直角三角形の底辺の2乗と高さの2乗の合計が、斜辺の2乗に等しいという定理)であり、「a2 + b2 = C2」で表されます。

 

 

「ピタゴラス」は古代ギリシャの哲学者、幾何学者の名前です。彼は、宇宙は数にもとづいていると信じる哲学的・宗教的集団「ピタゴラス学派」を創設しました。 しかし、紀元前2500年ごろから栄えた古代バビロニアの粘土板には、この定理を利用した問題が書かれていたとのことです。

 

古代中国の数学書でも取り上げられており、ピタゴラスの定理は、数千年以上の昔から人類の歴史とともにあり続けてきた遺産といっても過言ではありません。 そんなピタゴラスの定理は三角法へ発展し、正確な地図の作成を今でも支え続けています。ピラミッドの高さはギリシャ哲学者のターレスにより三角法を使って求められました。

 

私たちが地図アプリなどで使用しているGPSはピタゴラスの定理と相対性理論があるから成り立っています。衛星と受信者の距離から受信者の位置がわかるのは、ピタゴラスの定理があるからです。 ほかにもガウスの曲率(曲線の曲がり具合)の考えへの発展、アインシュタインによる重力の定義など、さまざまな役割へと発展、応用されています。

 

農地の測定のため誕生した定理が、現在では宇宙の形を測るまでに発展しているのです。 数学は一見ロマンとは無縁のように思われる数学も、このような話を聞くと壮大な物語を感じられます。 「苦手意識がある」という方も、大人になった今だからこそ、数学を「学び直す」機会としてはいかがでしょうか。

 

 

編集・文=青野祐治

 

 

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おとな数学塾〜中学数学を楽しく学びなおす〜

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