目次
- 企業はビジョンをどのように定めるべきなのか
- 中川政七商店が現在に至るまでの歩み
- 意味的価値が重視される時代
- 適切なビジョンを設定するための5ポイント
2020.10.06
経営においてビジョンが大事という意見には、多くの方が首を縦に振るでしょう。
しかし、そのビジョンをどのように定めるべきなのか、また経営においていかに生かすべきなのかについて答えられる方はそう多くはないのでは?
好評を受けて第2シーズンがスタートしたSchooの授業シリーズ『できる! デザイン経営塾』第7回ではゲストに全国約60の直営店を展開する株式会社中川政七商店、代表取締役会長の中川政七先生を迎えて、これからの時代のブランディングや、ビジョンを実現させるための経営視点について考えます。
共著『ブランドのはじめかた』『ブランドのそだてかた』を出版するなど、本シリーズのホスト西澤洋明先生と中川先生は深い関係にあります。授業の後半には質疑応答形式による中川先生の考えやブランディングにまつわる対談も行われました。
いよいよ始まったチャプター2では中川先生から、中川政七商店の歩み、そしてブランディングとビジョンとは何かについての講義が展開されました。
1716年(享保元年)に奈良にて創業された中川政七商店は高級麻織物「奈良晒(ならざらし)」の商いを立ち上げ、1970年代に茶道具業界へ参画して事業を拡大します。そして、1980年代には主に麻雑貨を取り扱う「遊 中川」がオープンしました。
しかし、当初、雑貨部門は赤字だったと中川先生はいいます。
そこで中川先生が取り組んだのが「卸から直営店へのシフト」。「いかに他社との価格やデザインでの競争から抜け出すか」を考え“ブランディング”に目を向けたということです。
現在では「中川政七商店」「遊 中川」「日本市」の3つの業態を展開し、全体の売り上げは64億円に到達しています。
そんな中川政七商店のビジョンが「日本の工芸を元気にする!」。
「このビジョンの設定が成長につながっている」と中川先生はいいます。
中川先生曰く、「日本の工芸を元気にする」の「元気にする」を深堀りすると「経済的自立+ものづくりの誇り」という言葉に変換されます。そのビジョンを実現するために行われた取り組みとして、以下の2つが挙げられました。
・流通の出口の拡大(大日本市、直営店の拡大)
・経営再生コンサルティング
業態や直営店など“ものを売る場所”が拡大したのは前述の通り。さらに工芸の経済的自立を支援するため、中川政七商店が着手したのが経営再生コンサルティング。“10年で20社「産地の一番星」をつくる”ことを目標に取り組みは実施され、有限会社マルヒロのサポートでは陶磁器ブランドHASAMIの立ち上げなどにより8,000万円の赤字から3億円の黒字への転換を達成できたといいます。
その成功の要因のひとつとして挙げられたのが「部分ではなく全体」を見たこと。まずは決算書を確認し手を付けるべき課題を洗い出すところから中川政七商店のコンサルティングははじまるのだといいます。
それにとどまらず、工芸品の展示会「大日本市」の開催や講座による人材育成、さらに産地全体を盛り上げるための産業革命(製造背景の統合)や産業観光の促進にまで、ビジョンに向かってさまざまな取り組みが行われています。
いよいよ、ブランディングとビジョンについての講義です。
「良いもの=品質+機能+デザイン(付加価値)」という図式は良く取りざたされますが、中川先生は実は「付加価値」という言葉に違和感覚えているのだといいます。
なぜなら、同じ値段で付加価値を高めることで他社と競うということは結局「価格競争」につながってしまうから。価格競争は、ブランディングとは真反対の概念です。
品質、機能、デザインといった機能的価値ではなくブランド力=意味的価値に目を向けてみましょう。
人々が重視する意味的価値は「時代とともに移り変わる」と中川先生。「安心」が重視された時代から「あこがれ」を経て、現代のキーワードは「共感」です。それも、会社のスタンスやビジョン、思想、働く人へのより深い共感が求められていると中川先生はいいます。
そうした要望に応えるためには「お客様の頭の中にあるイメージ=世界観」に合致する差別化と整合性の担保が求められるとのこと。ブランディングは「伝えるべき情報を整理して、正しく伝えること」を意味します。
現代において、伝えるべき情報は「商品やものの機能」から「思想や人への共感」へと変容しました。つまり、商品以上にブランドや会社のスタンスが重視される時代の到来です。
そのため、現代では会社としての生き方、つまり「ビジョン」の重要性も大きく高まっています。「ライフスタイルよりライフスタンス」と中川先生は一言でまとめました。
適切なビジョンを考えるにあたって中川先生が提示する重要ポイントは以下の5つです。
1.「Will(自己実現)」「Can(利益追求)」「Must(社会貢献)」の重なり合い
2.合議ではなく、一人の熱い思い(パッション)
3.お客さんに媚びない
4.テンションが上がる
5.動詞にする
企業のビジョンを調べてみれば「ピンとくるビジョン/来ないビジョン」があることが分かります。上記の5点を知っているかどうかが、その違いを左右するかもしれません。
さらに、「ビジョンは生み出すだけでなく展開しなければならない」と中川先生。ビジョンの展開時のポイントとして先生から上げられたのが以下の3ポイントです。
1.事業との整合性(ロジック)
2.まずは社内へ(インナーブランディング)
3.ビジョンから始まる競争戦略の話が面白い(ストラテジー)
その詳細については、ぜひ実際の映像で学んでみてください。
授業後半には「中川先生はいかにビジョンを浸透させたのか」「事業においてトップダウン・ボトムアップをどう使い分けるべきなのか」など興味深い話題がたっぷり対談形式で取り上げられています。
『これからのデザイン経営の話をしよう! 第7回 すべてはビジョンからはじまる』
http://schoo.jp/class/7227/room
「これからのデザイン経営の話をしよう!」の次回の授業タイトルは「なぜ特許庁はデザイン経営を宣言したのか(ゲスト:特許庁 デザイン経営プロジェクト 外山雅暁)」。日程は9月30日(水)21:00-22:30です。
『第8回 なぜ特許庁はデザイン経営を宣言したのか(ゲスト:特許庁 デザイン経営プロジェクト 外山雅暁)』
文=宮田文机
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授業の最初には第2シーズンの始まりということで、デザイン経営の考え方について簡単なおさらいが行われました。“デザイン経営とは、経営全体にデザインを活かすこと”だと西澤先生。ブランディングデザイン・イノベーションデザインを中心に置きつつも、CIデザインやUXデザインなどさまざまなデザインの手法を経営の選択肢に加えるのがデザイン経営だといえるでしょう。