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2021.02.15

column

サブリミナルマーケティングは嘘だった? その理由とは

サブリミナルマーケティングは嘘だった? その理由とは

みなさんは、「サブリミナルマーケティング/サブリミナル広告」という言葉を知っていますか?

意識が知覚できないくらいのスピードで無意識の領域にメッセージを送り込むことで行動をコントロールするとされる心理テクニックで、ときに「悪魔の業」といわれることもあります。

まことしやかに語られるこのような話を耳にすると、「知らず知らずのうちに扇動されているのでは……」と不安になってしまいますよね。

しかし、一般社団法人日本マインドリーディング協会理事で日本ビジネス心理学会上級マスターの岸正龍先生は「サブリミナルは嘘なんです」と語ります。その理由は何なのか、またサブリミナルに似たスプラリミナル効果とは何なのか、本記事で答えを探りましょう。

目次

  • もっとも有名なサブリミナル広告の実験はでっちあげだった
  • 性的イメージとサブリミナルの関係
  • スプラリミナル効果とは?

 

 

もっとも有名なサブリミナル広告の実験はでっちあげだった

 

サブリミナル広告の実験を多くの人が知るきっかけとなったのが「ポップコーンとコカ・コーラの実験」です。1957年、アメリカニュージャージー州フォートりーにてアカデミー賞6部門の候補となった映画作品『ピクニック』の映像に3/1000秒というわずかな時間だけ、何度も以下のメッセージを表示するという実験が行われました。

 

“Drink Coca Cola”
“Hungry? Eat popcorn”

 

そして、メッセージが挟み込まれていないバージョンの『ピクニック』を見せた場合とでコカ・コーラ、ポップコーンそれぞれの売り上げを比較したところ、前者は18.1%、後者は57.5%アップしたというのがこの実験の結果です。

 

 

「しかし、この実験は結構眉唾物なんですよ」と岸先生。そもそもこの実験を主催したJames M. Vicaryはアメリカ広告調査機構に実験結果について詳細を公表しろと要請されたのにも関わらず、論文を発表しませんでした。

 

そこで、カナダCBCの番組『クローズアップ』が“telephone now”というメッセージを映像中にVicaryの実験と同じく3/1000秒、こちらは352回繰り返し表示したところ、かかってきた電話は0本だったのです。

 

また、同番組では事前に「何か感じたことがあったら手紙をください」と視聴者に伝えてありました。しかし、送られてきた手紙500通のなかに「電話がかけたくなった」という内容のものは一通もありませんでした。

 

その実験を受けてVicaryに真相を追及したところ、本人が「あれは破綻しそうな自分の会社を救済するためにでっちあげたんですよ」と白状したのです。すなわち、いわゆるサブリミナルマーケティング・サブリミナル広告の効果はまったく立証されていないのです。

 

しかし、サブリミナルの効果を信じる風潮は根強く、2019年にアメリカで行った調査において「広告を出す企業は、サブリミナルで、自分を操作しようとしている」と回答した人の割合は62%を記録しました。「それだけ僕らはサブリミナルを恐れているし、サブリミナル信仰がある」と岸先生は語ります。

 


性的イメージとサブリミナルの関係

サブリミナルについて扱った書籍で最も有名なSUBLIMINALSEDUCTIONの表紙には「ARE YOU BEING SEXUALLY AROUSED BY THIS PICTURE?(あなたはこの写真をみて性的な興奮を覚えますか?)」と記載されています。

 

岸先生曰く、性的な興奮を司る脳の側坐核は「欲しい」という気持ちと深く結びついており、性的イメージを発信することで商品が売れやすくなるという傾向がみられます。そのため、性的なイメージをサブリミナル的に広告に忍ばせるという試みに期待が集まってきた歴史があるということです。

 

例えばサブリミナル実験の事例として取りざたされることの多き怪しげな花の絵。このなかでは「SEX」という文字が暗示されています。

 

 

またGINの広告で、広告の中にまたもや「SEX」という文字が忍ばされた(ように見える)事例や、ハイネケンのボトル2本で逆さまになったヒップラインがかたどられた事例もあります。ほかにもフィリピンのソーセージのCMなど性的なイメージが暗示された広告イメージが複数、岸先生により紹介されました。

 

 

しかし、「これは僕に言わせればサブリミナルじゃないんですよ」と岸先生。それは、“知覚できているから”。知覚できない領域にイメージを刷り込むのがサブリミナルなので、だまし絵のようにメッセージが仕込まれているとはいえ、映像・画像として知覚できるものは要件に当てはまらないということです。

 

「Disneyサブリミナル」で検索するとでてくる「ライオンキング」「塔の上のラプンツェル」「リトルマーメイド」の事例も同様に、見えているのだからサブリミナルとは言えないと先生。また、性的なメッセージを忍ばせることと広告効果の関係が立証されているわけでもないということです。

 


スプラリミナル効果とは?

では、知覚できるイメージによって消費者の購買を刺激する手法はなんというのでしょうか?

 

その答えは、「スプラリミナル」です。認識はしているが、気にはしていないというレベルでメッセージを受けとらせるのがスプラリミナルのポイント。エール大学の社会心理学者John Barghが「並んでいる単語5つの中から4つを選んで文章を作ってください」と2つグループに依頼し、一方のグループに提示する単語の中にだけ「老人」をイメージさせる単語を含めるという実験を行いました。

 

実験後、実験室までの道程9.75メートルを進む速度を計測したところ、「老人」関連の単語を見ていない部分は実験前も実験後もほとんど速度が変わらなかったのに対し、見ているグループは戻りの速度が平均13%低下したのです。

 

 

「スプラリミナルは心理学でいうとプライミング効果と呼ばれているものにすごく近いんですよ」と先生。岸先生の第一回の授業でも取り上げられた同効果。「碁石をイメージしてください」といわれてから「動物を思い浮かべてください」といわれると、パンダやシマウマなど白黒の動物がついつい浮かんできてしまいます。

 

また、「自動車、船、電車……それでは空を飛ぶのは何?」といわれると鳥ではなく「飛行機」と答える人が大半です。このように先に浮かべたイメージに思考が引っ張られるのが「プライミング効果」。

 

女性が被写体として映っているバイク雑誌や車雑誌の表紙などは、性的なイメージによって購買を刺激するスプラリミナル効果を用いた事例の一種といえるということです。

 

文=宮田文机

サブリミナルマーケティングの嘘と、知覚できるが気に留めていないイメージで我々に訴えかけるスプラリミナル効果を紹介しました。「コカ・コーラとポップコーンの実験が嘘だったなんて……!」と衝撃を受けた人もいらっしゃるのではないでしょうか。より詳しく知りたい方は、ぜひ実際の授業もご覧ください。

 

『ビジネスで使える賢い心理学 第13回 「サブリミナルマーケティング」の嘘』http://schoo.jp/class/7420/room?ref=pencil

 

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