目次
- 行動経済学とは人の二つの“かんじょう”を掛け合わせる学問
- コロナ禍のトイレットペーパー不足はなぜ起きた?
- 行動経済学を活用するプラクティス
2020.07.16
『データサイエンス「超」入門』、『なぜ「つい買ってしまう」のか?』の著者である松本健太郎先生は、
2020年7月、新著『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』を刊行。
本授業では新著の内容に触れつつ、行動経済学の基礎を学びます。
では、実例をもとに考えていきます。昨今コロナ禍でトイレットペーパーやマスクの不足が全国的に問題視されていましたが、混乱の初期、不足情報はデマだと数々のメディアが報じていました。それでも実際に在庫が不足してしまったのは、なぜでしょうか?
この裏には、ナイーブ・シニシズムという思考の歪みが働いています。ナイーブ・シニシズムとは、自分よりも相手のほうが自己中心的だと考える傾向を指します。言い換えれば、自分を上に見てしまっている状態です。
また、もう一つ第三者効果という歪みも関連しています。第三者効果とは、自分はメディアに騙されないけれども、他人は騙されるかもしれないと考えることを指します。これらの歪みが掛け合わさったことで、あのデマ情報が流れたとき、多くの人々はこう考えました。
「自分はスマートだからデマには騙されない。けれども、自分よりもスマートではない人々がもしかしたら騙されて買い占めるかもしれない。だから、少しだけ買いためておこう」。
不安から生じた行動を誰もが選んだ結果、深刻な在庫不足が現実化しました。 その後、まだ大量に在庫があることをメディアが報じたところ、人々の不安は鎮まり、在庫不足は徐々に解消していきました。このように、起こった事象のなかで、人々がどんな心理で行動したのか、行動経済学を通じて理解できます。
では、今度は課題解決に行動経済学を応用してみましょう。たとえば、自粛を促すために適切なアクションとは、どういったものが考えられるでしょうか?この問いに答えるためには、そもそも『人々はなぜ自粛できないのか』考えなければなりません。ここには、正常性バイアスと同調バイアスが深く関わっています。
ここで大切なのは、ロジックはロジックに勝てないということです。バイアスがかかった人々には、個々の正しさがあります。データやロジックで『自粛することが正しい』と伝えても、お互いのロジックがぶつかり合うだけです。
それよりもバイアスを壊す手法を探るほうが効果的です。たとえば、メディアは外出している人を取材するのではなく、家にこもっている人を取材すると良いでしょう。
というのも、外出する人々の姿を伝えると、視聴者の同調バイアスが働き、「なんだ、自分も外出していいんだ」と思わせてしまうからです。逆に、家にこもる姿が正常・大多数であるとメディアが伝えれば、人々は外出する自分を異常と感じ、行動しづらくなるでしょう。
行動経済学は、人の行動を変える学問ではなく、人の行動の選択肢を増やす学問です。先の自粛の例では、バイアスを壊すことで自粛するという選択肢を増やしました。
SNSやブログで対外的に発信するのが苦手な人は、公開しなくても問題ありません。手書きのメモで得た気付きや学び、次のアクションを書くことを習慣化するだけでもインプットの質が向上します。
ただし、アウトプットへのフィードバックが独学を加速させてくれる面もあるので、できるなら誰かから意見がもらえる状態にするのがおすすめです。
実際の授業では、松本先生が受講者との一問一答を通じて議論するシーンもあります。行動経済学の奥深さをわかりやすくまとめて進行する授業は、これから刊行される新著の事前学習としてぴったりの内容です。より行動経済学のおもしろさを体感したい方は、ぜひチェックしてみてください。
文=宿木雪樹
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それって合理的な判断じゃない。日常のなかで、そんなふうに感じることがありませんか? あなたがそう思うとき、実は相手にとってそれは合理的な判断であり、立場や得た情報の違いで合理性の基準が変わっています。
人には二つの“かんじょう”があります。損得の“勘定”と、“感情”です。多くの場合、合理的な判断は前者から導かれるものですが、ときとして感情を優先すると、非合理的な答えに行きつくこともあります。行動心理学とは、このふたつの“かんじょう”を掛け合わせ、人々の行動を紐解く学問です。
人は基本的に合理的な判断をもとに行動します。しかし、この合理性は感情や状況に応じて歪みが生じます。この歪みは予測可能であり、行動経済学は歪みを明らかにしていきます。行動経済学を学ぶと、人に優しくなれます。
というのも、一見理解できない他人の行動も、行動経済学に照らせばどんなプロセスでその行動を選んだのかがわかるからです。こうした視点を得ることは、もちろんビジネスシーンでも役立ちます。