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2021.12.13

interview

“なぜ世界は滅んではいけないのか?”ーー『ただしい人類滅亡計画』著者:品田 遊先生が語る書籍化までの知られざる道のり

“なぜ世界は滅んではいけないのか?”ーー『ただしい人類滅亡計画』著者:品田 遊先生が語る書籍化までの知られざる道のり

ただしい人類滅亡計画はどのようにして生まれたのか?

目次

  • なぜ人類は存続しなければならないのか?
  • 「勝手に書く」からこそぶつかる壁
  • 自分の中に眠る逆の才能が創造の肝
schoo人気シリーズ「〇〇はどのようにして生まれたのか?」はモノやサービスが生まれたプロセスを通じて、創造の手法について学ぶ授業に、オモコロのライター、小説家としてご活躍されている、ダ・ヴィンチ・恐山こと品田 遊先生が登壇。
ご自身の著書、『ただしい人類滅亡計画』が生まれたプロセスのついてお話いただきます。

最初はnoteで連載された企画をもとにして生まれた本書籍を形にしていく中で悩んだこと、議論したことなど、知られざる制作秘話とは?

ダ・ヴィンチ・恐山 先生

オモコロ

学びノート

SESSIONなぜ人類は存続しなければならないのか?

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まずは私が出した書籍『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』の概要についてお話しします。ジャンルの区分けは難しいのですが、対話形式の倫理哲学小説です。

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ある日「魔王」と呼ばれる全能の存在が目を覚まし、人類を滅ぼすという使命を背負うことになります。しかし魔王は理屈っぽい性格で、なぜ人類を滅ぼさなければならないのか疑問を抱きました。そこでランダムに人間を10人呼び、人類が滅ぶべきかどうかを話し合わせ、自分を納得させるように指示します。

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全く思想の異なる10人の人間が本当に人類は存続する価値があるのか。そういった対話を繰り広げるというストーリーです。

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このような本を書こうと思った理由は、完全に思いつきです。そもそも書籍化する計画もありませんでした。きっかけはデイヴィッド・ベネターという哲学者が『生まれてこないほうが良かった』という哲学書でした。

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この本では「段階的な人類滅亡」を大真面目に議論しています。「人間は生まれてこない方がいいし、生まない方がいい。ゆくゆくは地球上に意識のある生命はいなくなった方がいい。」ということを本気で主張している本です。

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私は子どもの頃から、なぜ世界が滅んではいけないのか正直疑問に思っていました。よく小学校で課外授業や総合の時間にエコロジーについて学びますよね。その時に、なぜ未来のためにそんなに地球を綺麗にして資源を節約しなければいけないのか、石油を今使い果たすならそれでいいし、地球人が代々生命や資源を受け継いでいく必要はないのではないかと思っていました。

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最近になって、「反出生主義」という言葉が流行り出しました。反出生主義は「生まれてくることがそもそも悪いことで、人は滅んだ方がいい」という思想です。

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今でも生きづらさを抱えている人って結構いますよね。「男女が結婚して子どもを産むことが普通」という圧があったり、他にも生きていると様々な不幸に遭ったりします。そういう辛いものを抱えている人の中には、「そもそも生まれてきたことが間違い」という考え方がある種救いになっているところがあると思います。

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ベネターの本を読むと、かなりすっきりした論理で「人が人を生むということがいかにして悪なのか」ということが示されていました。読んでいくうちに「反出生主義」というのは様々な切り口で考えられそうだし、ただネガティブなわけではなく、結構厄介な哲学的な問題が重層的に絡み合っていて面白そうだと感じました。

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当時はこの考え方を「思考実験としての面白さ」という切り口で触れている人があまり日本語圏でいなかったということもあって、自分なりに紐解いていきたいなと思い、半ば趣味のようなかたちで書いていました。

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では次に、どのような切り口で書いたかお話ししたいと思います。「反出生主義」というのは哲学の中でも倫理学の領域ですが、大前提として私は完全に外野の一般人で、何か学位を持っているわけではありません。なので「反出生主義とは何か」を分かりやすく書いたわけではありません。

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そもそもそれが自分の書きたいことではありませんでしたし、自分にとっても相手にとっても不誠実な内容になってしまうと思いました。「自分の子どもの頃からの純粋な疑問を解き明かしたい」というのが出発点だったので、体系的な学問の話ではなく自分が本当に興味のあることを書きました。なので「反出生主義入門編」のような形の本ではありませんし、いろんな論文を引っ張ってきて意見しているわけではありません。

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では私は反出生主義のどういうところに惹かれたのかというと、「本当に人は人を生むべきなのか」という考えは「個人と社会」「自由と責任」「私と他者」など哲学上の問題のいろんな要素をカバーしていて、厄介な問題が複雑に重なり合っていると感じました。

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その「実は複雑に重なり合っている」というところに惹かれたのだと思います。なので反出生主義は「様々な角度から問題を捉えることができる」ということ自体を示しました。

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先ほど質問にもありましたが、私自身は反出生主義に対して賛成とも反対とも言えません。現実問題として反出生主義は力のない思想だと思います。反出生主義を主張する政党が力をもって議席を半分以上獲得するという想像がリアルにはしづらいです。

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そこで反出生主義をよりリアルなシチュエーションにするためにファンタジーな設定を持ってきたというのが小説にした理由です。

SESSION「勝手に書く」からこそぶつかる壁

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次にどうやってこの本を作り上げたかについてお話しします。
私はこれまでに小説を2冊出しましたが、ありがたいことに2冊とも出版社の方からお声がけいただいて書くことになりました。

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今回はお声がけされたから書いたというわけではなかったので、完全に需要のないところからのスタートでした。要は「勝手に書いた」ということなのですが、この「勝手に書く」のが私は苦手だということが今回学びになりました。

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ちょっとしたツイートや1,000~2,000字程度ならすぐに書けますが、10万字ほどある本は数週間、数か月かけて書くので、「自分が勝手にやっていることだし」とどうしても怠けてしまうんですよね。

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これから必ずしも打診があるわけではありませんし、自分で書けるようになる仕組みを作らなければいけないと思いました。
そこで解決策としてなんとなく思い浮かべたのがnoteです。noteはブログ投稿サービスなのですが、私は2018年の6月から定期購読マガジンをやっていまして、もう1,000日以上毎日日記を書いています。

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堪え性のない私が1,000日以上毎日日記を書き続けることができている理由は何か。それは読者からお金をもらってそれなりのものを書かなければいけないプレッシャーがあるからです。

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なので自分にこのプレッシャーを与えれば書き続けられると思い、noteに連載することにしました。noteには「マガジン」という機能があって記事をまとめるフォルダがあります。面白いことに、何も入っていないマガジンを売ることができ、売ってから中身を詰めていくことができます。

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私はその機能を使って空っぽのマガジンを一つ500円で売りました。「10万文字ボックス」と名付けて、下書きや思いついたことをとにかく放り込んでいき、10万字書くまで続けることにしました。500円という強気の値段を設定して、自分にプレッシャーをかけてなんとかこの本を書き上げることができました。

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しかも仮に10万字書き上げてつまらない文章になってしまったとしても、何人かは買ってくれているので、完全に丸損ということがありません。

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かつて私は漫画を描こうとしていたことがあったのですが、何度描いてもボツになってしまって、ネームを描いては編集会議に持っていくというのを3年繰り返しました。
ボツになった漫画は利益になりませんし、誰の目に触れることもありません。そこで自分としては疲弊してしまい、モチベーションを保てなくなった経験がありました。

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なので自分の文章は読者からお金をもらって読まれているというプレッシャーと、下書きが丸損にならないという2点から自分のモチベーションを保ついい方法だと思っています。

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一般化してみると、人間には「こういうことをやりたい」という欲望と「こういうことは無理だな」という限界があるのだと思います。どちらも叶えるためにどういう方法があるかを考えて書き続けた結果、自然と本の構成が決まっていったという感じです。

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そうは言ってもやはり実際に書くのはしんどくて、当初約束していた掲載ペースも大幅に落ち、内容もぶれてしまい、半ば放置するような状況になっていました。
「これはやばいかもな」と思っていたら、本当に幸運なことにイースト・プレスさんから書籍化しないかお声がけいただきまして、「本にするという明確なゴールだあったら書けるかも」と思い、なんとか息を吹き返しました。

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最初から出版社に売り込めばよかったではないかという声もありそうですが、途中で出版社さんからお声がけいただいたことがかえって良かったと私は思っています。

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もしゼロベースで出版社さんにこの本の企画を売り込んでいたら、最終的に結論をどう持っていきたいのかすり合わせが上手くいかず、当初のコンセプトとずれていたかもしれません。自分である程度全体の見通しを作り上げた上で、半分ほど書けていたことが出版社さんもゴールが見えやすくなって、よりスムーズに完成までたどりつくことができたと思います。

SESSION自分の中に眠る逆の才能が創造の肝

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それではまとめに入りたいと思います。今回は『ただしい人類滅亡計画』を書き上げるにあたってどのような経緯があったかをお話ししました。そこで最後に私にとっての「創造の肝」についてお話ししたいと思います。

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私にとって創造の肝は「可能性を狭めること」です。先ほどもお話ししましたが自分の中に眠る「これは無理」という逆の才能をハッキリさせてることで何かできることが見えてきます。

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私も自分のモチベーションをなんとか保たせ、本を書き上げるためにnoteを用いました。自分の中に限界があるからこそ、「じゃあどうしようか」という発想になると思います。なので創造の肝は「可能性を狭めること」と結論付けたいと思います。本日はありがとうございました。

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今回ご紹介した『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』著:品田遊
https://www.amazon.co.jp/dp/4781620043はイースト・プレスから発売中です。ありがたいことに発売後すぐに重版が決まりましたので、ぜひお手に取ってみてください。電子版もございますが、イラストをコルシカさん、ブックデザインを森敬太さんに手がけていただきましたので、ぜひ紙の方でお楽しみいただければ幸いです。

2021年12月13日 公開

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2021年08月17日 放送分
ただしい人類滅亡計画はどのようにして生まれたのか?

ただしい人類滅亡計画はどのようにして生まれたのか?

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