目次
- 依存症は「心の病」
- 依存症と逆境体験の関係
- 依存症から抜け出しにくい理由
2021.02.07
アルコール、薬物、ギャンブルへの“依存”は、それらと縁遠い人から見ると、まったく関係ないことのように思えるかもしれません。しかし、どんなことにも依存するリスクはつきもの。決して他人事ではないでしょう。
『薬物、ギャンブル、アルコール……「依存症」という社会課題の捉え方』は、そんな依存症に関する個々の視点や捉え方を見直し、アップデートするための授業です。講師に迎えるのは「公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」の代表・田中紀子先生。先生自身もギャンブルと買い物の依存症になって苦しんだ経験があり、それをきっかけに依存症について深く関わることになったそうです。
本記事では、そんな先生が展開する授業の一部を掘り下げて紹介します。
続いて田中先生が語ったのは、依存症と逆境体験の関係について。先生いわく、薬物やアルコール依存症を引き起こすトリガーは、15歳までの逆境体験がカギとなっているそうです。
実際に「神奈川県立精神医療センターせりがや病院」の小林桜児先生が行なった調査によると、日本ではまだマイナーな違法薬物の依存症者は、15歳までに虐待や親との死別といった家庭での逆境体験があった人が多いとのこと。またギャンブル依存症者には、学校でのいじめ体験、親からの過度な期待を背負いすぎた経験をしている人が多いそうです。
ちなみに、昨年から猛威を奮っているコロナウイルスや災害も、依存症を引き起こすリスクがあると先生は語ります。
「コロナウイルスや災害の直後は、周りも不安を抱えているため、依存症にはつながりにくいです。ただ時が経ち社会復帰した人が増えると、自分がとり残されたような感覚を持つ人がいます。同じように復帰できれば良いのですが、辛い出来事を体験してから立ち直れないままでいると、それをきっかけに依存症を引き起こすことがあるんです」
「依存症は再発のリスクが高く、なかなか抜け出せない」という話をよく耳にしますが、そもそもなぜ依存症は再発のリスクが高く、抜け出しにくいのでしょうか。
田中先生は、その理由を「意志の弱さ」という言葉だけで片付けてしまうのは好ましくないと語ります。むしろ、依存症者のある特徴が関係しているとのこと。
「依存症者の行動は『やりたくてたまらない状態』と捉えられがちですが、そうではありません。『止め方がわからない状態」というのが正しい認識です」
止め方がわからない。人によっては「それこそ意志が弱いだけなのでは?」と思うかもしれません。しかし先生いわく、依存症の問題はもっと根深いそうです。
「そもそも依存症者の多くは、自分自身に怒りや絶望を抱いています。過去の逆境体験やトラウマを思い出したときに、それらは苦痛へと変化します。そして依存症者は苦痛を緩和させるためにアルコールやギャンブルなどに手を出してしまうんですね。ちなみに、苦痛を緩和するためのそれらは、飽きることがありません。一時的だったとしても苦しみを忘れられるわけですから。依存症者がなかなか抜け出せない理由の1つは、ここにあると私は考えています」
上述した内容は、授業の前半で語られるほんの一部です。中盤以降は、この内容をベースに「依存症を伝えるメディア側の問題点とその改善点」について語られます。田中先生は、メディア側にどんな問題点があり、どのように改善するべきと考えているのでしょうか。
文=トヤカン
後半では、自身や家族が依存症になってしまったときの向き合い方など、依存症に対する具体的なアプローチの仕方も学べます。これを機に、ぜひ依存症への捉え方をアップデートしてみましょう!
『教養としての「社会課題」入門シリーズ 第6回 物、ギャンブル、アルコール……「依存症」という社会課題の捉え方 -教養としての「社会課題」入門シリーズ- 』http://schoo.jp/class/7470/room
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授業は、先生が受講生に投げたこんな問いから始まります。
結果は1と2を選ぶ受講生が多数でした。先生は、この結果の理由を以下のように語ります。
まず依存症には明確な治療法がありません。病気と称されるものの多くが薬や手術で治せる時代ですから、治療法のない依存症は病気だと認識しにくいのでしょう。
加えて依存症を抱えている当人も、病気だと認識していない場合があります。だから『もっと意志を強く持とう』や『もっと強くならなきゃ!』といった精神論で治そうとするんですね。それが悪循環の始まりとなってしまうにもかかわらず……」
また、依存症の対象が社会的に悪いイメージを持たれやすいことも、理由として挙げられるとのこと。
「医学的に依存症と認められているのは、アルコール、薬物、ギャンブル、ゲームの4つですが、これらは社会的にイメージが悪い。そのため、依存症になっても『自業自得』と思われるケースが多いんです。こうした現状も、依存症が心の病気として信じられにくい、認識されにくい理由になるでしょう」