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Oct.

2018年03月20日 公開

仮想通貨バブルの崩壊と世界的ベーシックインカム -話題の〇〇で理解する、わかりやすい経済のはなし(2018年3月号)-

仮想通貨は“壮大な社会実験”である。 コインチェック、アルトコイン、ベーシックインカム…いま、知っておきたい経済のこと

学びのエッセンス

  • 仮想通貨は発展途上。成熟するまで長い目で見る必要がある
  • お金の歴史を振り返ると、いまの状況は「明治時代初期」に類似する
  • ベーシックインカムは"自由に生きるため"の選択肢を増やす
『AKB48の経済学』などを著書に持つ経済学者の田中秀臣先生に、毎月話題のニュースを経済学の観点からお話いただく本授業。

今回は、いま最も旬と言っても過言ではないテーマ、“仮想通貨”と”ベーシックインカム”について解説いただきました。

仮想通貨は今後どうなるのか?「お金の歴史」をふまえて振り返ります。また、ベーシックインカムが導入されると私たちの働き方はどう変わるのか?

私たちの暮らしにも影響する、これからの「お金」と「働き方」について紹介していきます。

田中 秀臣 先生

経済学者

田原 彩香

受講生代表

学びノート

SESSION仮想通貨のこれから。そして、 ベーシックインカムは私たちの働き方をどう変えるのか?

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今月のトピックは、仮想通貨バブルの崩壊と世界的ベーシックインカムです。

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私は、ベーシックインカムの追っかけです。やはり、皆さんの関心も高いと思います。

最近も国会で裁量労働制の話をやっていて、ちょうど、その法案見送りというニュースも流れていましたよね。

必ずしもベーシックインカムって、働くっていうことに関係ないのですが、ベーシックインカムっていうものを導入すると、働き方の自由度が広がるということにつながります。

大きな枠組みでいえば、ベーシックインカムというのは、我々の働くこと、または一般の普通の生活全般に関わっていく話なので、特に注目しております。

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今月は、仮想通貨といった資産価値が高騰する一方、国内の貧困の格差が取りざたされています。果たして、なぜ貧困は拡大するのでしょうか。

また、世界規模で見たとき、ベーシックインカムはどのように進展していくのか。こちらを田中先生にわかりやすくお話をしていただきたいと思います。

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先ほど少し話したんですが、いま日本の国会でも裁量労働制の話が出ています。また、残業の規制とか。私たちが働く上で重要な話題が、いろいろと議論されています。

本当に議論されているかは、わからない面もあります。その中で、これから私たちが、経済社会・この世界をどのように生きていくか、それを考える上で大きな出来事が、いま進展しているところです。

やはり、一つは、この仮想通貨という問題ですよね。個人もしくは企業、いろんな組織が主体になって、いわゆる電脳空間、ネット上で通貨を発行し、それが流通していくというような世界が、今、現に展開していると。

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ところが、いろんな問題があるんです。日本にいるとなかなかわかりづらいんですが、欧米や中国ではかなり仮想通貨に厳しい議論がなされていて、規制もなかなか厳しい。

その中で、比較的、仮想通貨について、どちらかというと世界の議論をリードしようという意欲があり(あったのか、なかったのか、本当はわからないですが)かなり規制が緩いということでは、日本がトップランナーにいたわけです。

ただし現在は、ご存知のように、コインチェックの問題など、社会的に非常に厳しい目を向けられている面があります。

この番組で仮想通貨について話したのが、ちょうど去年の秋くらいでしたっけ?

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そうですね。秋くらいからお話をしましたね。

SESSION仮想通貨は「バブル」なのか

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そのときには、仮想通貨の構造的な問題で、これは通貨としては失敗していて、むしろ投機的な資産として皆に取引されていると話しました。その投機的な資産の在り方も、特定のタイプの人ばかりが多くて取引に参加している。

したがって、取引の方向が極端に振れやすいというので、資産価値として乱高下しやすいと傾向にあると指摘しました。

そういったことが、資産としてかなりリスクが高くて、なおかつ通貨としてはおそらく失敗するだろうというような厳しい評価をこの番組でやって、田原さん(受講生代表)の冷たい視線を受けました(笑)。

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そうですね。たしか、そんなこともありましたね。

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そのときに比べてみても、最近は、ビットコインだけではなく、様々な仮想通貨全体に渡って、かなり通貨価値が不安定化しています。なかには暴落しているものもある。

一時期のように、垂直のように貨幣価値が上がっていくような状況では、まったくなくて、逆に乱高下をしている。

今の日本の株価やダウ平均、それも今日(放送日)は大きく、両方とも下げているのですが。せいぜい1,5%くらい。2%とか。2%くらい低下すると、大暴落に近いような印象なんですよ。

ところが、ビットコインは、平気に、1日のある時間帯だけでも、3%くらい軽く上下動する。

そうすると、株価でさえも1%を超えると大きく価値が変わったということで、なかにはリスク資産をみなして、投資家が手を引いてしまう。

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岩井克人という日本で非常に有名な経済学者が、朝日新聞のインタビューでこう言っています。

彼は、貨幣というものは、非常におもしろいと。

仮想通貨も当初は非常におもしろいものだと思っていて、貨幣というものは、一体どういう形で生まれて、皆に信頼性を持って取引をされているのか、そこに岩井氏は注目しています。

そういった貨幣が生まれるという社会実験が行われているということで、初めは好意的に見ていたんです。

やはり、貨幣というのは、利用する人たちの信頼を得なければ、貨幣として成り立たない。

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そういったことを考えると、意外と貨幣というものは生まれにくいんだ、というのが岩井氏の指摘です。

ビットコインのバブル、そして事実上のバブル崩壊状況に今はなっていると思うんですが、そういったものに関して彼は非常に厳しい見解を抱いていて、ぼくとも共通しています。

岩井氏や僕のように従来から仮想通貨に厳しい見方の論者もいますが、日本ではただ経済学者はみんな、ビットコインや仮想通貨に意外と甘いんですよ。意外と生暖かく「応援」みたいな人が多いんですが。

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そうですよね。流れ的には応援の方向ですよね。

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海外の政策当事者を含めて、各国の中央銀行やBISとかそういった銀行規制の国際的な、元締めみたいな機関があるんです。または、経済学者も含めて、かなり厳しく見ているのが海外の方では経済学者、実務家の主流で、要するに貨幣として未成熟であると。

その貨幣としての未成熟性の中で、一番大きい問題として何があるかというと、やはり、仮想通貨を発行主体が、独占的な権益をほぼ独り占めしているような状態があることです。

つまり、個人個人、もしくは企業が発行していますので、その企業や個人に通貨発行益が生じている。

いわゆる中央銀行も貨幣を発行すると、その貨幣を刷ったコスト以外のものが手に入る、ということです。

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本当はもっと厳密にやれば難しい話ができるんですが、簡単に言えば、貨幣を発行する印刷代とか紙代がいりますよね。そのコストを抜いたものを政府通貨発行益といいます。

本当は、政府通貨っていうのは、だいたい国債と引き換えに市中に出回るので実際には、国債の価値なんですよ。

それが政府通貨発行益なんだけど今、あとの仮想通貨の話と連動させなきゃいけないので話を簡単にしておきます。

あえて単純な話をすれば、各国の中央銀行、我々が今使っている一万円とか、千円、五千円、全部にコストがかかります。紙代とか印刷代。それを引いたものが、単純に言えば、政府通貨発行益と言うんですね。

それがどこに入るかというと、全部、通貨を発行した中央銀行の懐に入るわけです。先ほど言いましたように、実際には、国債の利回りが、各国の中央銀行の懐に入っていくわけなんですが。

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仮想通貨の場合は、簡単に言えば、貨幣と国債などの資産との交換を考えなくても良いわけですよ。自分たちが自由に発行できる。

それがブロックチェーンという仕組みで皆が信頼していれば、理屈上は貨幣としての条件をみたす。

ただし本当に貨幣として成立するかについては、先ほどの僕や岩井氏の指摘のように現実には困難に直面しています。

簡単に言うと、そういった電気代、もしくは多少の手数料、それ以外は全部仮想通貨を発行した主体、個人、もしくは組織に入るということです。これが仮想通貨の貨幣発行益ですね。

膨大な独占的な利益を得ている人たちもいるわけです。そういった人たちは、独占益が非常にメリットですよね。自分で通貨を発行して、いま言ったようにほんの些細なコスト以外全部懐に入っちゃいますので。

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勝手がとても良いですよね。

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ええ。しかも、独占益というのはどういった状況で最も最大化するかというと、なるべく発行数を少なくした場合です。

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価値が上がるんですもんね?

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そうです。ビットコインも、これはインフレを嫌うという、初めは美辞麗句で、ビットコインの発行枚数を抑えているということだったんですが。

結局、それは、その発行主体、もしくはそのグループ、何人かのグループと言われていますが、その人たちが独占的な通貨発行益を得るためには、通貨発行数を制限したほうがうま味が大きいんですよ。

そういったことがおそらく、多くの人はわかっていて、これは通貨としてはなかなか怪しげなところがあるなというのが、海外の厳しい目の大半を占めているんじゃないかと思いますね。

SESSION仮想通貨は、こども銀行

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仮想通貨って、大人が使うこども銀行みたいですね!

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まさにその通りです。

仮想通貨を極端化すれば、まさにこども銀行なんですよ。田中通貨とか、田原通貨みたいなものです。明らかに田原通貨のほうが、僕より信頼性がありそうですけどね(笑)。

そういった形で、今のご指摘のように、通貨というのは、こども通貨じゃ、誰も取引をしてくれないのですよ。

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信用度が低くなってしまいますもんね。

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そうです。そのために、仮想通貨はブロックチェーンという形で、通貨としての信頼性を持たせようという仕組みでした。

このブロックチェーンの仕組みは非常に良くできています。

別に仮想通貨だけで終わる仕組みじゃないってことは、多くの人たちが思っているところですね。

だけれども、通貨として、ビットコインはじめ、いろいろなアルトコイン、そういったものが存在すると、通貨の信用性をめぐる「通貨競争」が起きてきます。

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いろんなものがありますよね。

360

1000種類くらいあると言われていますよね。

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そんなにあるんですね。でも、実際に日本とかで取引ができるのは、数十種類とか、ということですよね?

SESSION仮想通貨は発展途上。 「決済手段」としての浸透が成熟のカギ

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そうですね。ただし実際に利用されているのはそのうちのごく一部分です。ただそれだけありますと。

競争通貨という概念があるのですが、最も信頼性の高い通貨が、競争の結果勝ち上がっていくことになります。

ただし、この通貨競争も現実には情報の問題に直面します。さすがに1000種類もあると、使うほうも情報が取れないんですよ。どれが信頼性を持っているかって、結局は、通貨価値を見て判断せざるを得ないので。

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そうすると、これだけすべての仮想通貨、大部分が価値が上下動していますと。

激しくボラティリティしていますと、これはおそらく多くの仮想通貨が通貨としては短期から中期にかけて、目先数時間から1,2年にかけては、なかなか通貨としては成熟しづらいだろうというのが、だいたいの見方だと思いますね。

ただ、10年20年という先はわかりません。

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10年20年先は、今の皆さんがどういうふうに使っていくかによる、ということも大きいですよね。

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そうですね。

やはり、投機的な資産ではなくて、取引、いろいろな決済として使えないと、なかなか貨幣としては成熟していかないと思いますね。

SESSION仮想通貨の勃興は「明治時代初期」の状況に似ている

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本当に仮想通貨は「決済通貨」になると思いますか?

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日本も江戸幕府が崩壊して明治新政府になりましたね。

そのときに、いろんな地方で銀行を作ったんです。第何銀行とかね。ナンバー制だったんです。AKB48みたいなね。1番、2番、3番みたいな。

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なるほど。わかりやすいですね。

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そこが勝手に通貨を発行していたのですよ。いわゆる競争通貨のような状況になっていたのですが。多くは、山猫銀行って、当時批判されたんです。

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山猫銀行?なんか可愛らしいですね。

360

いやいやいや!山猫大変ですよ!野生の山猫って言ったらね、うかつに手を出したら、スパッと指とか切られちゃいますから。

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けっこう凶暴なんですね。

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ええ。凶暴です。銀行とは言っておきながら、裏側でバランスシートが痛みまくっているとか、信頼性に乏しいというような銀行が勝手に通貨を発行していて、収拾がつかなくなってしまったという状況が、明治のはじめ頃にありまして。

それで日本銀行という中央銀行を作ったんです。つまり、競争通貨は、今から百数十年前に1回失敗しているんですよ、日本で。

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1回失敗してしまったんですね。

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失敗しました。各民間の銀行が自由に通貨を発行して。

でも、それが結局金融システムに不安定性をもたらしてしまった。ということで、日本銀行というものを立ち上げた。それによって、通貨価値の安定を図っていったというのが、日本の近代化の流れです。

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その失敗を踏まえて、もし決済通貨とするのであれば、何かちょっとやり方を工夫しないと。

SESSIONコインチェックは 、 金融庁の厳しいチェックに耐えられるか

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そうですね。単に登録制だけではダメですよね。

今回のコインチェック問題で、おそらく金融庁が中に入って、取引を横で見ているらしいですから。帳簿のチェックであるとか。

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すべて。

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ええ。かなり細かくやっていかないとダメですね。でも、その金融庁のチェックに耐えられるだけの企業が、今、一体どれだけあるのか。

そうなると、かなり淘汰されていくだろうという気はしますね。

結局、そういった体力が、金融庁の細かい指導やチェックをクリアできる企業体があるとすれば、それは既存のメガバンクはたぶんクリアできると。

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メガバンク系の仮想通貨は、たぶん残るかもしれないですね。発行すれば、ですよ。

さらに、日本の場合は、日本銀行が発行すれば、おそらく日本銀行の仮想通貨が一人勝ちして終了。

アメリカの場合は、FRBが仮想通貨を発行すれば、それで終わってしまう。ということで、おそらく日本の近代化のときに見れた状況と似たような展開が起こっても不思議じゃないような形に、今のところはなっています。

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なるほど。今後どういうふうに進んでいくのか、見ないといけないですね。

360

そうですね。よく見なきゃいけないですね。

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仮想通貨に関して「送金目的では役に立つけれども、資産価値はない通貨」というコメントもあります。

SESSION仮想通貨は、壮大な社会実験

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資産価値としては非常にリスクでね。だから、資産価値の変動が激しいものが好きな人たちもいるわけです。

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そうですよね。上がり下がりが楽しめる人であれば、すごく楽しめますよね。

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ぜんぜん問題ないわけです。

投機というのは、必ずしも悪いことばかりではなくて、むしろ経済の安定をもたらす良い側面もあるわけですよ。

だけれども、決済通貨としては、通貨価値が一晩で何%も平気で上下動する。

多いときは10%くらい平気で変化しますから。しかも、細かい時間の単位、数時間のうちに。そうなってしまうと、決済には、これはなかなか使えないということですね。

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なるほど。メリット・デメリット両方ありますよね。上がり下がり・ボラティリティが激しいのも。

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あります。ただこれだけはっきりしてしまうと、資産としてでしか持たないのであれば、それはそれで良いと思うんですが。

ただ注意点は、当時の明治のはじめに各県で自由に通貨を発行しましたが、とりあえずは、後ろ盾があったわけですよ、いわゆる政府の存在が。

勝手に発行していたのだけど、最終的には明治政府が責任を持ったのですよね。

だけれども、仮想通貨の裏側には政府はない。そういったところは、まさに子ども銀行たる所以みたいな感じですね。ただ非常におもしろいとは思います、知的な意味でね。

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今後も仮想通貨はやってみて。どうなるかなという思いで、やってみたいなと思います。

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そうですね。

特に今、やはり壮大な社会実験をしていると思えば、知的な意味では非常におもしろいでしょう。

経済学者の多くは批判しつつも、これはおもしろいところに立ち会えたなと思っていると思います。

貨幣というものは、一体どのように生まれるのか、そういったものについて深く考える良い機会だと思いますね。

SESSIONベーシックインカムは、世界を変えるのか

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引き続き、ここは皆さんで考えていきたいテーマではあるかなと思います。

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そうですね。今言ったように、資産運用の一つとして、ビットコインをはじめとした仮想通貨の話も考えているのですが。

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お金の問題というのは、やはり非常に重要です。

次にベーシックインカムの話しをしますが、私、ここで取り上げるのは、3回目です。ネタがないのかというんじゃなくて、楽しいからやるんです(笑)。

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田中先生の好きな分野でもありますしね。

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そうそう。必ずしも僕はベーシックインカムを支持しているんじゃないんですよ。

むしろ、どちらかというと、ベーシックインカムを賛成しすぎちゃって、今の既存の社会保障の体系の考察をないがしろにしちゃうんじゃ、ちょっと馬鹿らしいなというふうに思っている人なんですよ、私は。

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なるほど。導入するにしても、やり方を考えなきゃいけないと思われているんですね。

360

現実的に、ちゃんと、どういうふうにやっていくのか。そういったことを考えないと。

「ベーシックインカムのほうがいいや」で思考が停止するのはどうかなというふうに思っていましてね。

ちょうど、この世界的ベーシックインカムという話をやろうというふうに1か月前に決めたときには、まだ出ていなかったんですが、最近出版された「ベーシックインカムへの道」という本がすごくいいんです。

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ガイ・スタンディングっていう方が書いた本で「BIEN」、「ベーシックインカム地球ネットワーク」というNGO団体がありまして。

その代表が書いた本が翻訳で出ましてね。ちょうどこれを送ってもらったんですよ。このSchooの番組があるので、気が利いているなと(笑。編集の方には感謝です。

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ちょうど、ぴったりですよね。時期的にもぴったりです。

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ぴったりなんですよ。で、このガイ・スタンディングという人は、世界に、先進国もそうだし、発展途上国にもベーシックインカムを導入しようと。

特に、スリランカとかアフリカで、彼は限定的なベーシックインカムの導入実験をしているんです。そこでいろんな成果をあげたのをこの本の中でも紹介していて。

最後のほうには、具体的にベーシックインカムを特定の地域で導入する際に気を付けなければいけないことっていうやり方まで書いてあって。

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そこまで書いてあるんですね。

SESSIONベーシックインカムを 「限定的に導入する」という社会実験

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社会実験。つまり、いきなり導入しようと言っても支持が得られないと。

日本のある地域とかで、限定的に、経済特区みたいな感じでベーシックインカムを導入する。

それで、そのベーシックインカムの良いところと悪いところがあるだろうから、ベーシックインカムを導入した地域としていない地域から、サンプルをランダムに抽出して、ベーシックインカムの効果を見ようと。

これは、「ランダム化比較実験」といって、薬品の効果を試すときによく使われる統計手法なんですよ。

薬を飲ませた患者からランダムにサンプルを取ると。また、偽薬「これは薬。効果があるよ」と言って、偽薬を飲ませた患者さんからランダムにサンプルを取って、それで比較するというね。そういう実験手法なんですがね。

360

そういったもので、とりあえず、ベーシックインカムの効果を検証する。

どれだけの効果があるのか、確かめてから導入したらいかがですかという、極めて実践的な本で、非常におもしろかったです。

ガイ・スタンディングは、「プレカリアート」(非正規雇用形態で生計を立てる人、不安定な雇用を強いられた人々)と言って。「生きさせろ!」ってね。

雇用が不安定で、自分がやっている仕事にもプライドが持てないとかね。絶えず金銭面でも不安定であるし、精神面でもつらい思いをしている人たち。

360

それをプレカリアートと言うのですが。ガイ・スタンディングが、その命名者の一人なんです。

そういった意味では、「プレカリアート」みたいな、働く意味でも精神的にも少し不安定な人たち、絶えず不安にさらされているような人たちを、いかに状況を良くするかで、ベーシックインカムを導入するのが一番良いんじゃないかというのが、このガイ・スタンディングの発想です。

13

なるほど。これは「もう、導入しましょう」みたいな感じなんですね。

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そうそう。よくベーシックインカムは、例えば、リベラル的な人たち。リベラルと言っても、リバタリアンといって。オバタリアンじゃないですよ(笑)。リバタリアン。

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ちょっと思いました(笑)。

SESSIONベーシックインカムは「小さな政府」をつくるためか、「所得政策」のためか

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これは、自由を尊重する人たちっていうんだけど。

できるだけ政府はいらないだろうと。

人々が自由に経済活動をするのが望ましいという人たちですね。

ガイ・スタンディングから言うと、それはそういった競争感、自由に競争させてそれで良いというのは、弱肉強食を肯定しているような人たちであると、彼は批判的に捉えているのだけど。

リバタリアン的な発想からいっても、ベーシックインカムは大好きなんですよ。

どうしてかというと。決まった定額を、例えば、毎月日本円すると5万円とか7万円とか、それを毎月配るだけで、それで既存の社会保障、年金だとか子ども手当とか、医療だとか、失業手当だとか、そういったものをすべて廃止できるから、小さい政府が実現できると。

360

政府の介入が、非常に小さくなるから良いんだというのが、だいたいリバタリアン的なベーシックインカム導入。

左の人は違う。ガイ・スタンディングは左なので。彼は、既存の社会保障制度は残すと。例えば、医療も当然そうだし、年金も基礎年金以外の部分は残す。加算されるような部分はね。

いろんなものは残すんだけど、そういった社会保障と切り離して、最低限の所得を与えると。これは所得政策なんだと。

360

別に政府の大きさを小さくする、とかそういうのはぜんぜん関係ない。むしろ、人々の連帯を高めるためにこの所得を与えるんだという、そういった発想です。

つまり、ガイ・スタンディングさんは、所得政策としてのベーシックインカム。

リバタリアン的な発想のほうは、どちらかというと、既存の社会保障制度をできるだけ無駄なくするということですね。

SESSION“自由に生きるため”の ベーシックインカムという考えかた

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今あるものを大事にしていくイメージですか?

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ガイ・スタンディングのほうは、そういった感じです。ベーシックインカムをもらうと、ガイ・スタンディングの発想でいくと、これは人にこき使われない。そういった意味の自由をもたらすことができる。

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良いですね。理想的ではありますよね。

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うん。例えば、7万円とか8万円を毎月もらうと。

そうすると、無理して働くことはない。と同時に、例えば、家の中で介護したいとか。介護をして、ちょっとアルバイトをしたいとか。

または、ボランティアをやりたいとか。そういったこともできる。無理して働くことをしなくて良い。

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本当にやりたいこととか、心からやらなければと思っていることに焦点を当てられるんですね。

360

そうです。だから、スタンディングさんは、雇用と仕事とわけるんですよ。

雇用というのは、あくまで他人に使われる。そうじゃなくて、我々は、それは働くっていうことのごく一部分であると。

先ほど言ったボランティア活動であるとか、地域の貢献であるとか、あるいは家事手伝いとか。

そういった、通常の市場で取引されないような働く部分。そこに、我々が気楽に取り組むことができる。余暇も向上することができるって言っているんですね。

360

実際に、今、「アンペイドワーク」と言われているんですが。

「無償労働」のことですね。日本の経済規模は、名目でだいたい今500兆を超えて、540兆とか560兆とか、そのくらいの額があるんですよ、年間ね。

ところが、ご存知のように、家事とか、介護とか、育児とか、これはぜんぜんGDPの中に入っていないんですよ。

今言った家事、この中には炊事とか、洗濯とか、掃除。あとは、介護、看護、育児、買い物、ボランティア、献血活動。

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そんなものも含まれているんですね。

360

そうそう。そういった無償労働というのは、まさに働くことで、非常に意義があると。

そういったことにベーシックインカムを与えれば、無理なく関与することができますよというのが、いわゆるリバタリアンじゃなくて、リベラル側の発想ですよね。

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ベーシックインカムが導入されれば、日本でもイノベーターが出てくると思います!

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そう。まさにその通りなんですよ。リスクをベーシックインカムがある程度吸収してくれる。つまり、自分の最低限の生活は、なんとなく維持できるから。

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起業もしやすいですよね。

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しやすいと思います。そういった点では、若い人なんかは、特に良いんじゃないかなと思うんですよ。

前々回くらいに、日本でどのくらいの額のベーシックインカムが可能かを紹介しました。

今回は、特に、ガイ・スタンディング流に、今既存のいろんな医療だとか教育だとか、そういったものの社会保障制度は既存と同じもので、なおかつ増税をしない。今と同じくらいの所得税で賄える範囲で考えてみます。

日本銀行の審議委員の原田泰さんの試算を利用します。彼は、どちらかというと、リバタリアン的な発想に近いのです。

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なるべく政府の無駄な社会保障制度は、代替予算として、ベーシックインカムに割り当てちゃおうと。つまり、小さな政府を志向するような面もあるんですよ、原田さんの資産は。

私は、ガイ・スタンディング流に、原田さんの推計をちょっと利用して、今の政府規模は変えない。

だから、無駄なこともいろいろあるかもしれないけど、それはお構いなくと一応仮定して試算します。

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無駄なことはいろいろあるかもしれないけど、基本は変えない。

360

そうそう。少なくとも、例えば、老齢基礎年金とか、子ども手当。これは、実は、ベーシックインカムで使われるものとまったく被っちゃうから。そういう見え見えに被っちゃう部分だけは廃止するというね。

13

明らかに被っているものは整理して廃止していくということですね。

360

そうそう。そうすると、どのくらい、毎月、我々はベーシックインカムを得ることができるのか。既存のまま、追加的な増税はぜんぜんしないと。

SESSIONベーシックインカムが実施された場合、 もらえるのは月額6万円程度

360

そうすると、だいたい月額6万…たしかね。昨日計算したんですよ、チョメチョメと。月額約6万円です。20歳未満は、2万6,000円。

これを高めていくにはどうすれば良いかというと、小さい政府を志向する人は政府の無駄なところを削って、それの余った予算をベーシックインカムにまわすという発想なんだけど。

それ以外だったら、やはり、経済規模を拡大しなきゃいけない。

13

全体を増やさなきゃいけないんですね。

360

そうそう。先ほど言った、名目GDPの額を増やしていくと。それで、おもしろいことがあるんですよ。さっき言った無償労働ね。

100兆円くらいある。それと、経済、無償労働以外の市場で取引されるGDPの額って、動きが逆なの。

つまり、不景気になると、経済規模・GDPが低下するでしょ。そうすると、無償労働が上がるんですよ。どうしてか、わかる?

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え?なんでですか?

360

だって、働けないから。

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時間が増えるから、ってことですか?

SESSIONなぜ、不景気になると「無償労働」が増えるのか

360

いやいや。働けないじゃん(笑) 例えば、パートとか、アルバイト、不況になったら?職がないですよね?

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職がないですね。切られちゃいますね。

360

そうすると専業主婦の方は、パートができないから、家に戻って家事をやるから。家事労働が増えるということは、無償労働がアップするの。

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なるほど。田中先生もアイドル活動が増えるわけですね。

360

えー…。現場に行かないで、Twitterで呟く数が増えるかもしれませんね。在宅アイドル活動ですね。

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そういう仕組みになっているんですね。

360

そういう仕組みになっていますね。無償労働ってけっこうおもしろいんですよ。あまり、まだ研究がなくて。

そういった額。6万円で一体どのくらいやれるかというと、けっこういけますね。

どうしてかっていうと、今の生活保護制度でペイできる額というのは、生活保護はいろんな条件で変動しちゃうので一概には言えないんだけど。

だいたい、年間、年額100万円くらいなんですよ。お母さんと子ども、2人くらいでね。

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ギリギリ生活できるという…

360

そうそう。それだと、今言った額で、8割か9割くらいは接近できると思いますね。単純計算でね。

年額90万くらいいくので。そういった意味では、接近するとは思うんですが。先ほど言ったんですが、これをもし上げるのであれば、原田案みたいな、政府の無駄なところをなくす。

でも、僕は、それは、どちらかというとあまり賛成しない。社会保障制度はある程度残しておく。

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今あるものが。

360

見え見えで被るもの以外は、全部残しておいたほうが現実性があるんじゃなかろうかと思うんですよ。政治的な対立を生み出してしまうので。

13

また新しい意見なんかも出てきちゃって、混乱しそうですよね。

360

そうそう。混乱しちゃうから。あと、ベーシックインカムを日本であまり反対もなく導入するきっかけは、就職氷河期世代。田原さんのリーマンショックのときも。

13

氷河期世代ではありますね。

360

あったんだけど。あれは、意外と短かった。

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1,2年とかですよね。

360

そうなの。そうそう。その前は意外と良かったから。

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すごく良かったですよね。

360

だから、田原さんだけ、1,2年がまったく損しちゃって、その反動で今リア充になっちゃったんだ。

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あ!私はそういうことだったんですね!なるほど。

360

そこで落とされて、リバウンドでギュッと上がる。

13

落とされて、一気にリア充化している。

360

そう。リア充化している。僕みたいにバブル経済のときに若い時代を過ごしちゃうと、別に髪がなくなったって良いじゃないか、ってね。

13

なるほど。そうなってしまうということなんですね。

360

それは置いといてですね、結局、限定的にベーシックインカムを導入するためには、就職氷河期世代、30代後半から40代前半くらいの人たちに限定的に導入する。

13

そんなことってできるんですか?

360

できる。年齢で切るだけ。

年齢で切って、あとはその年齢に当てはまれば、働いていようが働いていまいが、皆一斉に、全部月額5万円とか6万円を与える。そうすると、生涯年収が上がるから。

今、何が問題かというとね、その就職氷河期世代が多い世代の人たちが、生涯年収が低い。

13

そうですよね。就職できなくて、今アルバイトをしたりとか、そういう方がいますよね。

360

そう。低くて。景気が良くて、アルバイトから正社員になっても、やっぱり生涯所得で見ると、その前後の世代に比べて低くなっているから。

例えば、将来年金を十分に納めていないから年金のバックもこないとかね。

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なるほど。悪いことづくしですね。

360

そう。それを補ってあげるために、その世代に限って導入しちゃう。それは、有りかなと、僕は思うんですね。

1

ベーシックインカムを導入したら、その分、インフレになったりしませんか?

360

なりません。まず、インフレになるために必要な条件というのは、いろいろあって。ガイ・スタンディングもそれを言っているんですよ。

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本に書いてあるんですか?

360

ええ。まさに。まず、多くの国は、今、低インフレに直面している。つまり、生産性に比べて、物を買う購買力が低い状態であると。だから、低インフレの状態であると。

だから、多少購買力が増えても、ぜんぜん困らないと。むしろ、緩やかなインフレは良いんですよ。さらに、この購買力が追い付くと、それに追い付くために生産性も増やしますから。必然的に生産性が伸びていくんですね。そういった意味で、心配はないです。

360

さらに、強いインフレを警戒するためには、仮想通貨が世界を制覇していかない限りは、中央銀行の威力が強いので。

インフレ抑制に、インフレ目標を導入すれば良いだけだと思いますね。

13

なるほど。そこの仮想通貨のところまで繋がっていくわけですね。

360

そうです。

SESSION東京オリンピック後、日本は不況になるのか

2

東京オリンピックとそのあとに来るであろう不況についてどう思いますか?

360

東京オリンピックのあとに本当に不況がくるかどうかというのは、かなりクエスチョンで。

最近出てきている様々な経済学者の論文でいっても、オリンピックの開催が決まってから、オリンピック開催の前の年までで、だいたいGDPは10%くらい上がるんですよ。

360

日本の場合は、東京オリンピック、これはもうすでにGDP10%上昇をクリアしている段階です。

ただ、それが本当にオリンピックによるもの、例えば建設投資やいろんな施設とか、インフラ整備、それでもたらされたかというとかなり疑問符です。

どうしてかというと、建設投資の伸びはそこそこあるんですが、結局GDPが10%以上伸びたっていうのは、金融政策の動きがかなり大きいと。

各国のオリンピックの開催状況を見ても、オリンピック後に不況に直面している国というのは、意外と少ないんですね。

360

どうしてかっていうと、だいたい建設投資のブームというのは、オリンピック開催の1年くらい前に終わるんです。さらに、インバウンドと言いますか、観光客。これも意外と減らない。

そのまま、オリンピックを開催したということで、その国・都市のブランド力が上がることによって、観光客が逃げないんですね。

逃げないために何をやっているかというと、やはり持続的な金融緩和を多くの国がとっていると。そうすると、通貨安ですから、その国に観光しやすくなるんですね。

360

何が言いたいかというと。やはり、建設投資は終わる。つまり、公共事業は終わっちゃうんだけれども。

持続的な経済発展をするためには、金融政策というのはかなり重要だということですね。だから、東京オリンピックのあとに、必ず不況が来るというふうには思わない。

さらに、公共投資。これも極端には減らずに。むしろ、拡大基調にある可能性も否定できないということは、最近指摘されているんです。東京オリンピックは皆見に行っちゃうんですが。実は、前回の東京オリンピック、知っていますか?

13

前回ですよね?何年前ですか?

360

お母さんやお父さんも生まれていたか微妙ですよね。

13

そのくらいの年ですよね。

360

僕、前回の東京オリンピックの開催式に行きました。

13

そうなんですか。現地に行かれたんですね。

360

ええ。写真を見るとね、どこの国体かよ、という感じの。すごい当時は素朴なんですよ。そこに行ったことがあるんですけどね。

僕の家も四ツ谷にあったんですが。オリンピックの道を拡張するために、移転しなくちゃいけなかったの。

13

え?オリンピックの影響で、ですか?

360

そうそう。道を広げなくちゃいけないから。

13

大変ですね。

360

それくらい大きい変化があったんですよ、当時は。でも、今、そんな変化ないじゃない?

13

ないですね。

360

せいぜい新国立競技場作っている程度でしょ?

360

その程度じゃないですか。

その程度のレベルで、それがなくなる以上に、じつは高度成長のとき、先ほど言った昔のオリンピックのときに作った様々なインフラにガタがきていて、その更新時期がきているんですよ、とっくの昔に。

そのインフラの更新投資の伸び率がすごく高いんですよ。だから、東京オリンピック以降も、公共事業の伸びはそんなに低下しない。

そういった意味でも、経済は下支えしている、下支えするだろうという説を唱えている人もいます。

13

なるほど。そんなに思っているより不況になるという印象ではないんですね。

360

不況になるという印象はないと思いますね。つまり、経済政策のコントロール次第というところです。

13

けっこう話していて「オリンピックまでだよね」みたいな話があるんですけど。意外とそうではないんですね。

360

皆そう思っているんだけど。各国のデータを見てみると。そもそもオリンピックの経済効果が昔ほど大きくない。

だから、オリンピック自体が経済にそんな拡張効果をもたらしていないので、それが終わったとしても、あまり経済の減少のほうにも影響はないと。

むしろ、それよりも、その前後にとっている経済政策、金融財政政策の在り方のほうが、よほど大切ですよ、というのがだいたい今の経済学者の実証分析です。また、素朴な経済観察から言えるところでしょう。

EDITOR'S NOTE

タイムリーなことに、3月19日と3月20日にかけてG20(主要国首脳会議)が行われています。なにがタイムリーかと言うと、今回のテーマのひとつに「仮想通貨」があるんですね。それだけ「仮想通貨」が世界的にも関心度の高いテーマとなっていることが伺えます。

また、本授業では「お金の歴史」から「仮想通貨市場」の現状を考察しているところも非常に面白いです。田中先生のお話しによると、いまの仮想通貨市場は、地方銀行が"勝手に"通貨を発行できた「明治時代初期」の状況に似ているというのです。

結局は、政府の介入によって通貨の発行元が中央集権化されるわけですが...。通貨発行の歴史のなかに、仮想通貨市場と同じように通貨の発行元が「分散」していた時代があったというのは、驚きでした。

人生100年時代と言われて久しいですが、ベーシックインカムを「人間が自由に生きるための政策」と解釈するガイ・スタンディング氏の考え方も非常に興味深いです。

これからの時代、「働く時間」と「学ぶ時間」を交互に繰り返すような生き方が提唱されていますが、ベーシックインカムは「学ぶ時間」をじっくりと取りたいときには特に、有用なものになりそうです。

「仮想通貨」と「ベーシックインカム」はこれからの私たちの暮らしを大きく変える可能性を秘めています。これからもこの2つのキーワードから、目が離せません。

2018年03月20日 公開

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