阿部広太郎さんの「いまこそ読みたい書籍」
目次
- 阿部広太郎先生のおすすめの一冊「岩田さん」
- いい影響を与える人、「ユーザー第一号」とは?
- 一対一で話すことの大切さ。面談が作る信頼とは
- 才能とは「ご褒美」を見つけられる能力だ
コロナ禍で人と隔たりのある時代。なかなか人と会うことができない今に、本の中で人の温かみを感じられる。
そんな「いまこそ読みたい書籍」と思える一冊を、コピーライターの阿部広太郎先生がご紹介します。
阿部 広太郎 先生
コピーライター
花海 志帆
受講生代表
2020.10.02
阿部 広太郎 先生
コピーライター
花海 志帆
受講生代表
よろしくお願いいたします。今日ご紹介する一冊は、「岩田さん」という本です。
Twitterでもつぶやいたのですが、この本は「人間の根っこにある気持ちにとことん向き合う本」です。じんわりと温度が伝わってくるような、おすすめの一冊です。
「岩田さん」こと岩田聡さんは、42歳の若さで任天堂の社長に就任されました。ゲーム人口の拡大に努め、世界中のファンに笑顔をもたらした方です。そんな岩田聡さんの言葉を一冊にまとめたのがこの本です。
では、なぜこの本を選んだのかをお話しします。この本には、宮本茂さんと糸井重里さんが岩田さんについて語った特別インタビューも収録されています。
糸井重里さんはコピーライターの大先輩でもあり、糸井さんの主宰するほぼ日刊イトイ新聞も見ていたことがこの本を知ったきっかけです。
岩田さんの言葉の中で、僕が最初に感銘を受けた言葉があります。それは「自分の得意なことは何か?」という問いに対する岩田さんの答えです。
「自分の労力の割に周りの人がすごくありがたがってくれたり、喜んでくれたりすることが得意なことだ。自分としては努力して達成感があるのに、周りからの評価が芳しくないことは、自分は好きだったとしても実は不得意なことかもしれない。」
僕自身もあまり苦労を感じずに作ったものが周りの人に評価してもらえたり、逆に時間をかけて作ったのにそこまで評価されなかったり、という経験があります。なのですごく胸にストンと落ちた言葉でした。
そうですね。褒められても、自分が普段当たり前のようにやっていることだと「それが得意なことだ」と気づきにくいですよね。
そうなんですよ。自分では普通にできてしまうことなので、意外と気づかないんですよね。
でもこの岩田さんの言葉で、「当たり前にできていることでも周りから評価される得意なことは、どんどん伸ばしていっていいんだ」と思えました。そこで「岩田さんの言葉をもっと読みたい!」と思い、発売当日に買いに行きました。
なぜ今この「岩田さん」を紹介したいのかというと、今コロナ禍でなかなか人に会えず「隔たりの時代」でもあると思います。でもこの「岩田さん」という本は、本の中に人がいるような感覚を味わえるんですね。
岩田さんが隣にいて、学生の方であればOB・OG訪問をしているような、喫茶店で先輩とお茶しているような、社会人の方であれば残業後に一緒に一杯飲んでいるような温かい気持ちになれます。
なにか自分が不安に思っていることを聞いてくれて、アドバイスしてくれるように感じられます。
なるほど。よく本を読むときに「その人と話しているみたい」と言いますよね。
そうですね。僕も本を読むときに著者と会話をしているような感じが好きなので、自分が本を書く時もそれを意識して書いています。
それでは次に、「岩田さん」のどこに心をつかまれたのか、お話ししていただけますか?
はい。僕が感銘を受けた言葉をいくつかご紹介していきたいと思います。先ほどもお話ししましたが、この本では糸井重里さんの他にも宮本茂さんが岩田さんについて語っています。
宮本さんは岩田さんと同じく任天堂のゲームクリエイターで、世界的に有名な方です。その宮本さんが岩田さんについて語っている言葉です。
「岩田さんの本の読み方というのは、本の中にヒントを求めるのではなくて、ふだん考えていることの裏付けを得たり、自分の考えを本を通して人に伝えるために役立てているような感じでした。」
僕も「岩田さん」を読んで「普段自分が考えていることと似ている」「これで良かったんだ」と思えたことがありました。
なので、自分に身に覚えのあること、僕の心が呼応したこと3つをピックアップして、今回みなさんにもご紹介したいと思います。
1つ目は「いい影響を与える人」です。岩田さんは「ユーザー第一号」と仰っていました。本の内容を一部読ませて頂きます。
「私の作ったその電卓のゲームを楽しんでくれる友達が、たまたま自分の隣の席にいたことも、とても大切なことでした。その子はちょっと面白いやつで、なんていうか、私が作ったものを喜んでくれる、私にとっての最初のお客さん、『ユーザー第一号』だったんです。
人間はやっぱり自分のやったことを褒めてくれたり、喜んでくれたりする人がいないと、木には登らないと思うんです。ですから高校時代、彼と出会ったことは私の人生にとってすごくいい影響を与えていると思いますね。」
高校時代に岩田さんは電卓でプログラミングをしてゲームを作っていたらしいのですが、それを「隣に座っていた友人が喜んでくれたり、褒めてくれたりする」というのがすごくいい表現だなと感じました。
また、「喜んでくれたり、褒めてくれたりする人がいないと、人は木には登らない」というところがジーンときましたね。
僕も、自分から何かを率先して企てていく「リーダーシップ」も大切ですが、その隣にいる、盛り上げていく力「フォロワーシップ」も同じくらい大切だと思っています。
誰かが何か新しいことを始めようとしているときに、隣にいる人がどんな言葉を投げかけるかで、その人がその先頑張っていけるかが変わってきます。
なので、思っていないことを無理に言う必要はないのですが、自分自身が感動したことがあるのであれば、その人に必ず伝えたほうがいいし、そういう繋がりが世の中を良くしていくと思います。岩田さんもその「隣の席の友人」に励まされていたというのは、すごくうれしく思いましたね。
受講生代表:なるほど。たしかにムーブメントって、リーダーシップのある人の行動だけではなくて、それを「いいな」と思った人が同調して、どんどん輪が広がっていってお巻き起こる感じがしますね。ありがとうございます。
それでは続いて2つ目のご紹介をお願いします。
はい、2つ目は「信頼の作り方」です。
岩田さんは「一対一で面談するとはじめて語ってくれることがある」と仰っています。それではまた本の内容を一部読ませていただきたいと思います。
「最初に社員全員と話をしたとき、面談をして初めてわかったことがものすごく多かったんです。それまでも普通にコミュニケーションをできていたと思っていた人でも、一対一で面談すると初めて語ってくれることがある。変な言い方になりますが、人は逆さにして振らないと、こんなにも物を言えないのかと改めて思いました。
私なんかは割と相手に機会を作ってもらわなくとも、機会を自分で作って伝えればいいと思っている方です。自分のような人の集まりなら、面談はいらないでしょう。必要なことは必要なときに相手に言いますから。でも、みんながみんなそうではありませんよね。」
すごくわかります。私も一対一で初めて言えた経験があります。みなさんもそうですよね。
そうですよね。岩田さんは「変な言い方になりますが」と前置きしたうえで、「人は逆さにして振らないとこんなにも物を言えないのか」と言っていますが、すごくその感覚に共感しました。
僕も先輩や後輩に話すとき、やっぱり周りの目が合っていつでも本音を言えるわけではないので、岩田さんは一対一で向き合う大切さを説いてくださったのかなと思いました。
僕自身も「言葉の企画2020」という連続講座を今年、主宰しています。今回、コロナの影響でオンラインでの開催で、僕の大切にしている思い「世の中に一体感をつくりたい」を達成するためには「僕と君の一対一を大切にする」ことが必要だと思っています。
「一対一」を大切にしなければ、気持ちのつながりはできていきません。そこで手紙を送ろうと思ったんです。
レターパックに自分の著書「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」と手紙を封入して、一人ひとり宛名や住所を手書きで書いて、100名全員に送りました。
すごいですね!100人全員に書くというのが驚きですね。
最後の方は半泣きになりながら書いていました(笑)でもこれを自分がしたことによって、オンライン上ではありますが一人ひとりとのつながりが強くなったように思います。初回の課題の提出や講座の出席も、全員がしてくれました。
レターパックの品物名のところに「招待状」と書くことで、何だろう?と参加する方々の気持ちも上げることが出来たかなと思います。やっぱりこういう小さな積み重ねが大切なんだなと実感しました。
キュンとしますね。結婚式に行くようなライブ感もありますね。
イベント性が高まったかなと思います。
一対一って、僕自身も、そのとてつもなさを感じますが、その一人ひとりとの面談がいかに大変だったかをにじませている部分が「岩田さん」の言葉の中にあります。
「相手がすっきりしたらやめている」というところです。
「私が面談でそれくらい時間をかけているかというのはつまり、相手がすっきりしたらやめているということなんです。その意味では、できるまでやる。それも決めたんです。
みんなが私を信用してくれた非常に大きな要因は、私がその面談を続けてきたことだと思うんです。生半可な覚悟では続けられませんし、それがしんどいことだということは誰の目にもわかりますから。」
昨年の夏に読んだ時は正直あまり気に留めていなかったのですが、今このタイミングで、岩田さんでも一対一の大変さを感じていて、それでもやると決めたからやるという覚悟が伝わって、地道なことが信頼関係を築く近道なんだなと感じました。
何度も読み直しているうちにそう感じたということですか?
そうなんです。
何回か読み直しても感じるものがあるということは、読むタイミングによってその人が抱えている課題が違うということですよね。
そうですね。読む度に自分が共感したり呼応したりするところが違うというのが本の面白いところですよね。まさしく「岩田さん」もそうでした。
では続いて3つ目に参ります。「才能とは?」というテーマです。
岩田さんは、「才能とはご褒美を見つけられる能力だ」とおっしゃっています。
なるほど、どういう意味か気になります!
気になりますよね。では本の一部をご紹介します。
「人はまずその対象に対して、自分のエネルギーを注ぎ込むんですね。時間だったり能力だったりお金だったり。そして注ぎ込んだら、注ぎ込んだ先から何かしらの反応が返ってきて、それが自分へのご褒美になる。
そういうときに自分が注ぎ込んだ苦労やエネルギーよりもご褒美の方が大きいと感じたら、人はそれをやめない。だけど返ってきたご褒美に対して見返りが合わないと感じたときに人は挫折する。」
なるほど…!
その通りだなと思いました。時間やお金を費やして、どうリターンがあるか、それをご褒美だと感じられるかどうかが才能ではないかと、岩田さんは言っているんです。
「才能」ってそういう考え方もあるんだなと響きました。
もう一つ岩田さんは才能について述べていますが、今度は「天才」についてこんな風におっしゃっています。
「人が嫌がるかもしれないことや、人が疲れて続けられないようなことを、延々と続けられる人。それが『天才』だとわたしは思うんです。」
「天才」って抽象的な言葉をこういう風に明確に定義されていて、さらにその中で自分が面白がるポイントを見つけられる人が天才だとおっしゃっているんですね。
僕は「マイ定義」といって、自分なりの定義を持つことが自分らしさを作り上げると思っています。講座でもよく言っているのですが、「才能」の定義について自分なりに考えたことがあるんです。
僕が刊行した書籍『超言葉術』の中の、あとがきで「才能とは、掛けた時間である」と定義づけています。僕自身、コピーの勉強をする中で「向いてないかもね」と言われたことがあったんです。
自分がやりたいと思っていることに「向いてない」と宣告されるのはすごく悔しかったです。
厳しい言葉ですね。これは落ち込みますね。
へこみますよね。でも同時に思ったのは、これまで自分がやってきたことに対する周りの評価はもちろんある。
けれども、今まで自分がそこに掛けてきた時間や、これから自分がそこに対して費やしていく努力は誰にも奪えないということです。
自分が何を目指しても自由だし、どんな評価をされても自分が進みたいと思う道なのであればその先を確かめにいけばいいし、それは才能があるということだと僕は思います。
先ほど紹介した岩田さんの言葉にあるように、そこに時間を掛けられるということは、自分がそれだけ面白いと思えて、ご褒美を見つけらているということですから。
なるほど、「才能とは、掛けた時間である」というのは阿部先生の定義ですが、岩田さんと重なる部分があるんですね。ありがとうございます。
この授業で取り上げた書籍はこちらです。岩田さんや阿部先生の言葉をもっと詳しく知りたくなった方はぜひチェックしてみてください!
『岩田さん 岩田総はこんなことを話していた。』編:ほぼ日刊トレイ新聞
https://www.amazon.co.jp//dp/4865014225
『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』著:阿部広太郎
https://www.amazon.co.jp//dp/447811014X
2020年10月02日 公開
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本日は阿部先生の「いまこそ読みたい書籍」をご紹介していただきたいと思います。阿部先生、よろしくお願いいたします。