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2020.12.10

column

バイデン氏の経済政策、その誤解とこれから予想される流れ

バイデン氏の経済政策、その誤解とこれから予想される流れ

激戦の末、次期アメリカ大統領は民主党のジョー・バイデン氏にとりあえずは決まりました。昔から経済の世界では「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」といいます。日本にいったいどのような影響が及ぼされるのかとその経済政策に深い興味を抱いている人は少なくないでしょう。

また、新型コロナウイルスの勢いは衰えず、第三波が訪れたといって禍根ではない状況となっています。そんななかで菅内閣はどのような経済対策を行うのかも多くの人の関心が向かうところです。

上武大学ビジネス情報学部教授で経済学者の田中秀臣先生が毎月最新の経済ニュースを解説する『田中秀臣の最新経済ニュース』第27回のテーマは「初歩からわかるバイデン氏の経済政策と新型コロナ第三波の経済対策」。先生の軽妙な語り口も魅力のこの授業を、みなさんに一部抜粋してお届けします!

目次

  • 「トランプは『経済重視』、バイデンは『人権重視』」という誤解
  • バイデン流の財政政策の特徴は「増税」
  • RCEPに見る、中国のアジア経済圏支配の懸念

 

 

「トランプは『経済重視』、バイデンは『人権重視』」という誤解

 

スーツにサングラスといういでたちで登場した田中先生。まず語るのが「トランプは『経済重視』、バイデンは『人権重視』」という誤解についてです。「実は両者は『雇用重視』という点で非常に似ている」と田中先生は話します。

 

お金は人間の生きていく基盤としてなくてはならないものですから、人権と対立するようなものではありません。すなわち“雇用重視の政策は人権重視の政策”ともいえるのです。

 

トランプ政権の経済政策は雇用中心で、貿易政策も金融緩和の要求もすべて雇用の拡大を目的として行われていました。アメリカの有権者のなかには製造業や輸出産業がうまくいかないのは政治的な交渉力の不足のためだと考えている人が多くいます。そこでトランプ大統領はTPPのような多国間交渉ではなく、有利な条件を引き出しやすい二国間交渉へシフトしたという流れがあるのです。そして、「この方針はバイデン政権になっても変わらない」と先生は語ります。そのような政策を戦略的貿易政策といいます。

 

「雇用重視の政策は、いかに衰退産業の雇用をどうするかということに帰着する」と田中先生。そのため、バイデン政権でもアメリカのTPP交渉への復帰は望めないと考えられるということです。

 


バイデン流の財政政策の特徴は「増税」

バイデン政権が発足すれば公約通り大規模な財政政策が長期間にわたって行われることが予想されます。アメリカの中央銀行FRBもそれを支えるべくドルをたくさん発行します。その結果、円高ドル安が進行することになります。そのことを予測する投資家は積極的にドルを売るため、政権発足に先んじて円高ドル安は進むことに。

 

しかし、その流れは予測していたほどの勢いでは生じていないようです。その理由のひとつは、「多少リスクがあるところにも投資しようという動きがあるから」だと田中先生は話します。

 

 

バイデン流の財政政策の特徴は「増税」だと田中先生。伝統的に共和党は減税政策、民主党は増税政策という違いがあるそうです。富裕層への課税強化や企業増税によって得た財源はインフラ整備やAI投資に回され、雇用創出が行なわれます。

 

ただし、田中先生の見立てによると新型コロナウイルスの影響により経済が悪化した今の状況では増税に対する拒否感は平時以上に大きいです。だからこそむやみな増税には政府は慎重になっており、国債を財源とした積極財政に舵を切ることが予想されるということです。

 

また勢いを強めるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に対する締め付けは民主党政権の方が積極的になるといわれていたとのこと。ただし、こちらもコロナ禍の状況でどこまで切り込めるのかという問題があり、その壁に政権がぶつかることが予測されています。

 

ここで、「議会があるのに増税できるんですか?」というリアルタイム受講生からのコメントが。田中先生は「そうなんですよ」と受け答えし、上院が確定するかどうかが今後の焦点になると語りました。

 


RCEPに見る、中国のアジア経済圏支配の懸念

田中先生は現在の「プロパガンダが蔓延している」状況を指摘します。「ひとつの意見を信じちゃいけない。僕の意見でさえも信じちゃいけない」と先生。やはりワイドショーの意見をうのみにするだけでなく、自分なりに色々な人の意見を取り入れることは不可欠だということです。

 

ここから話は中国の安全保障と経済の国際戦略である「一帯一路」構想へ進みます。日本がそれに対し用意したのが「クアッド構想」。これはアジア版NATOとでもいうべき構想で、経済的な核としてTPPが含まれます。

 

「トランプ政権がTPP交渉から離脱したのはまずかった」と田中先生。それは、インド・太平洋構想の経済的な基盤をかなり損ねてしまうからです。また、中国・韓国とのRCEP(アールセップ:東アジア地域包括的経済連携)の妥結が迫っており、クアッド構想への楔となってしまう可能性が高いとのこと。中国の相対的な地位が、アメリカが離脱している間に上昇してしまう恐れがあるというわけです。

 

 

RCEPは日本・中国・韓国・ASEAN諸国の国境をまたいだサプライチェーンの構築を可能にする協定です。ちなみにインドは参加していません。RCEPには貿易財の関税障壁撤廃・引き下げやサービス部門の規制撤廃、海外からの投資の自由化に向けてのルール作りなどが含まれ、海外資本の受け入れ自由化を現在していない中国にとって大きな変化を生じさせることが予想されます。そして、記者会見等で、中国の首脳陣はTPP加盟の意志を否定していないとのとこ。すなわち、アメリカがいない間に中国がTPPに加盟し、対中国を目的としたインド・太平洋構想が崩壊してしまう可能性があるということです。

 

中国がASEAN諸国を囲い込めば、アジア経済圏の主導権すらも奪われてしまうかもしれません。だからこそ田中先生はバイデン政権が続いても裁判の結果トランプ政権が発足することになっても「TPPにはすぐに入ってほしい」と考えているということです。

 

文=宮田文机

今回は田中先生の授業のうち、バイデン政権の経済政策を皮切りとした世界の経済予測の内容についてご紹介しました。後半では、新型コロナ第三波を受けた菅政権の経済政策について授業が行われています。ぜひ動画でご覧ください。

 

『田中秀臣の最新経済ニュース 第27回 初歩からわかるバイデン氏の経済政策と新型コロナ第三波の経済対策 』

http://schoo.jp/class/7371/room

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