納得して働きたい僕らの哲学座談会
1つのテーマに対し、「みんなで問いを立てる」、「みんなで意見を述べる」という行為を繰り返す「納得して働きたい僕らの哲学座談会」では、自分と向き合い、他人と向き合い、問いと向き合う姿勢を育みます。
今回のノートは、あえて答えを出さない「哲学対話」の普及活動をする小川先生と受講生が「働く」について考えた“思考の軌跡”をお届けします。
小川泰治 先生
NPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダ事務局/学校教員
江川 みどり
受講生代表
2017.12.15
小川泰治 先生
NPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダ事務局/学校教員
江川 みどり
受講生代表
哲学対話という手法を用いて、皆さんのコメントをもとに、座談会を行なっていきます。
哲学対話ってなんでしょうか?
なにか一つの答えを出すというよりも、一つの「問い」について、お互いの考えやその理由を丁寧に聞き合うことを大切にする場です。
ですので、ビジネスで行われる会議のように、合意形成を行う場でもありませんし、意見をぶつけ合うディベートでもありません。おしゃべりの場ともまた違います。
どんな問いを扱うのかというと、「そもそも人は何のために生きるのか?」「自分はなんのために生きているのか?」など、哲学対話ではすぐには答えが出ないけれど、日々の生活でふと気になってしまうような「問い」をもとに対話を進めていきます。
今回は、受講生の方からの投稿から「問い」を決めていくんですよね。
はい。今回は、皆さんからいただいた「働く」に関する4つの問いから、「楽しく仕事ができるとはどういうことか?」について対話を進めたいと思います。
単純に、「今日も仕事に行くぞ!」と、ワクワクしながら朝起きられることでしょうか?
なるほど。楽しく仕事ができているのは朝にあるということでしょうか。確かに、朝が憂鬱じゃないことはいいことですよね。
いまの自分にとって、少しだけ難しい業務に挑戦するとき、「楽しさ」を感じます。
難しいチャレンジも「楽しい」の基準になるかもしれませんね。私も授業に登壇するという難しい業務にチャレンジしているんですけど、楽しいですね。
楽しい仕事の代表格といえば、「ユーチューバー」が思い浮かびます。
私は、あまりYouTubeを見ないので、詳しくないですが、江川さんは見ますか?
私は大好きでよく見ています。ユーチューバーは楽しそうに仕事をしてますよね。
辛そうなニュースも聞きますけど、楽しいんですかね…
「つらたの(辛いけど楽しい)」なんじゃないですかね?(笑)辛さもないと、楽しくないみたいな、楽しいだけじゃつまらない、みたいなところもあるんじゃないでしょうか。
なるほど!それは面白いですね。「辛い」と「楽しい」が単なる対義ではなく、「辛いからこそ、楽しい(つらたの)」のように二つの感情が両立するようなこともあるんですね。
やらなくてはいけないこと。好きなこと。得意なこと。この3つが重なり合うこと=「仕事が楽しい!」なのではないでしょうか?
そうですね。得意かどうかも重要な要素かもしれません。好きだからと言って、得意とは限らないですし。得意だからと言って、好きだとは限らない。ということですよね。
時間を忘れてやってしまう仕事は楽しいです。
辛いことって、時間が長く感じますか?
そうですね。終わりの時間が気になったりして、長く感じますね。
そうですよね。辛い仕事だと、「まだ終わらないなとか、いつ終わるんだろう」って思いますよね。確かに「楽しい仕事」というのは、時間が経つのが早いですよね。時間が過ぎるのが早い仕事が楽しい仕事と言えるのかもしれません。
夢中になってやっている感じですかね。
では次の問いを考えたいと思います。やりがいや辛さという部分に「問い」をシフトして、みなさんに聞いてみたいと思います。
「仕事が楽しくなるためには、ある程度の辛さが必要か?」ということを聞いてみたいと思います。
不得意だけど、好きという場合もありませんか?
そうですね。「不得意だけど好きって、なんだか辛い」という気もしますよね。好きでやっているけど、なかなか上達しないとか、辛いって思うかもしれませんよね。なので、「不得意だけど好きなことをするのは、辛いこと」だと言えるかもしれません。
辛いけど、その結果に楽しさや充実感があると、とても楽しいと思います。
なるほど、「結果の楽しさ」が大事なのかもしれませんね。辛いことがプロセスの中にあったとしても、ゴールした時に充実していたり、楽しいことがあれば、ゴールに向かう間に辛いことがあっても構わないということなんでしょうね。
辛さ=負荷だと思います。それがないとつまんない!!です。負荷=健全なストレスでもあると思います。
「健全なストレス」とはいい例えですね。全くストレスが掛からないよりも、ある程度の負荷、つまり健全なストレスが掛かるぐらいじゃないと、楽しくないのかもしれませんね。
「辛い⇔楽」で「楽」と「楽しい」はまた別の話しだと思います。
なるほど。辛いの反対は楽しいではないということかもしれませんね。「仕事を楽しいと感じるためには、辛さは必要ですか?」という問いの答えとしては、皆さんのコメントを見ると、必要だと感じてらっしゃる方が多いのかもしれません。
仕事にはある程度の辛さを求めているのかもしません。
確かに、そもそも仕事には楽しさを求めているのではなくて、辛いものが仕事だという風に思っている方が多いのかもしれませんね。
ちょっと意地悪な見方をすると、辛くなくても楽しいことって、日常生活ではたくさんあるかと思うんです。例えば、趣味のスポーツ観戦に行くときは、辛さはなくて、楽しいがあるだけだと思うんですよね。一般的に、「仕事の場合は辛いことを乗り越えた先に楽しさがある」と考えられていると思います。
仕事における楽しさと日常生活に求める楽しさの違いってなんでしょう。仕事でも楽しいだけなら、辛くなくてもいいという解釈もあると思いますが…。
難しくなってきましたね…。
登山やマラソンを考えると、辛さの後に「達成感=楽しさ」があるような気がしています。
なるほど。「楽しい」を「達成感」に言い換える方が出てきましたね。スポーツ観戦をして、応援しているチームが勝っても大きな達成感を感じることはないですよね。これは確かに、仕事の場合と違うと思います。
では、そもそも「楽しい」ってなんでしょうか。「辛いこと」について皆さんに聞いてみて思ったのは、「仕事の辛さは必要」で、「その先に充実感や楽しさ」がある。というのは仕事特有のことかと思いました。
そこで僕は、最後の問いとして、「仕事における楽しさってなんだろう?」と思いました。結果的に最初の問いに戻ってきたようでもありますね。日常生活の中にも「楽しさ」ってあるわけですが、「仕事における楽しさ」と似ているものや違うことなど、具体例を用いて聞いてみたいです。
仕事の楽しさは人からの感謝やお礼から達成感を得たときだと思います。
なるほど。達成感はキーワードになってきているようですね。
日常生活における楽しさは「楽」だと思います。
あー、日常生活においては「楽」できるかがポイントなのかもしれませんね。楽して「楽しい」や、楽して「ハッピー」とかそういった感じかもしれませんね。
現実的ですが、お給料が出ることだと思います。
仕事が楽しいと思うときはお給料が出たときということですね。つまり、お給料が出ないと楽しくない。確かにそれも一つありますよね。
成果に対して報酬がもらえると楽しいと感じるかもしれませんね。
確かに成果に対して、報酬がもらえるというのは、楽しさであり、充実感に繋がるのかもしれません。
仕事も勉強もスポーツも、何事にも楽しさの共通点がありますね。
そうですね。辛いことを乗り越えた時に、やってくる楽しさという意味で、共通点がありそうですね。日常にも楽しいことがたくさんあるわけですが、「仕事」という観点から考えると多くの人が考える「楽しさ」って、会社からの報酬や人からの感謝などによる「充実感」であるということが見えてきましたね。
やっぱり勉強は楽しくないです…
なるほど。受験などがない限り、ただ勉強するだけだと達成感は得づらいかもしれません。お金ももらえないですし。皆さんが仕事の楽しさとしてコメントしていただいた内容は、褒められることや他人に認められるとか、お金が貰えるなどですね。勉強しても、これらの要素はないような気がしました。勉強と仕事を対比してみると、極端な話し、「勉強は楽しさがなくてただ辛いだけ」で苦行な感じがしてきましたね…。
このテーマは、話しが尽きないですね…。最後に、先生に総括していただきたいと思います。
私の感想ですが、改めて「楽しさ」の定義ってなんだろう?と考えるきっかけになりましたし、充実感を得られるということが、仕事の楽しさに繋がってくるのだなということを感じました。
今回拾えていませんでしたが、コメントの中には、「本当に辛さがないと楽しくないの?」というような反対意見もありました。確かに私たちの多くはそもそも仕事とは辛いもので、それを乗り越えた先にあるものが「楽しさだ」みたいに考えがちです。しかし、そうとも限らないと思っていて、本当に楽して楽しめる仕事があれば、それはそれでいいのかもしれません。
確かに充実感は大事かもしれないですが、それだけを言い続けてしまうと、辛いことや苦行を頑張ろうというような風潮になりかねないので、そのあたりをもっと問い直す必要があるのかなと思いました。
「辛いことを乗り越えた先の充実感=仕事の楽しさ」という今日の議論の方向性が必ずしも正解ではないと思うので、その辺りももっと考えていきたいと思いますね。ここは答えを出す場ではないので、そういった問いを持ち帰ってもらえればと思います。
2017年12月15日 公開
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