目次
- 猫の「かわいい」を多面的に分析する
- ペットの役割は時代と共に変化している
- 無償の愛を注ぐ相手を必要とする現代社会
2021.04.13
「猫はかわいい」。多くの人が頷く文章だと思いますが、そもそもなぜ猫はこれほど人から愛され、求められているのでしょうか。近年犬に勝る人気を誇る猫の魅力について、学問的に理由を探る“猫社会学”を開講します。
Schooの授業「猫ブームに見る、“かわいい”の本質とは」では、東京大学大学院教授の赤川学先生を招き、猫ブームから紐解く現代社会を学びます。第一回は、「かわいい」の定義を確認し、猫を求める現代社会の本質について考察しました。
かつてペットは畜産に分類される対象であり、犬は家の門番といった役割を担う存在でした。しかし、時代と共に動物は家族の一員として求められるようになり、現在は家にいるだけで大切な存在という考え方が一般的です。ペットの評価基準の一つとして、かわいさのニーズが高まったともいえるでしょう。
赤川先生は、猫の持つ「孤立的」な性質が、存在するだけで愛せるという感覚を強める一因であると考えています。猫の場合、いくら飼い主が手間をかけて愛を注いでも、それが猫から返ってくるかどうかはわかりません。性格の個体差が大きく、飼い主に対してクールな猫もいます。そういったランダム性を受け入れることが、私たちの無償の愛をささげる欲求を満たしているのかもしれません。
その他、平均世帯人数が減ったことで散歩などの犬特有の世話が難しくなったこと、SNSブームで写真映えするペットが好まれるようになったことなども、猫ブームに拍車をかけている可能性があります。受講生から寄せられた意見をもとに、赤川先生は少子化とペットブームの関連性などにも触れました。
いずれにしろ、見返りを求めない投資対象を求める現代社会人と、多くの人が頷いてしまう「猫はかわいい」という評価には、何らかの関連性があるのでしょう。受講生と共に「かわいい」にまつわる調査データを掘り下げた一回目は、猫の性質が現代社会人のニーズと合致している可能性が見えてきました。
今回は「猫社会学~“猫ブーム”から時代を読む~」シリーズから、第一回「猫ブームに見る、“かわいい”の本質とは」の授業内容の一部をお届けしました。今後もシリーズでは、家族や経済について猫を基軸に考える試みを続けます。猫好きな方は、猫を介して社会を学ぶ時間として、ぜひ授業をチェックしてみてください。
文=宿木雪樹
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「かわいい」は、時代に伴い意味や用例が変化してきました。「かわいい」の語源である「かはゆし」には「美しいもの」という意味があったそうですが、現在の「かわいい」はアニメやアイドルなどに紐づく愛らしさのニュアンスが強く含まれています。また、「かわいいは正義」といった格言が生まれるように、「かわいい」は力を持つ言葉でもあります。
「かわいい」と言われる対象をコーパス(言語額における研究手法)によって調査したところ、私たちは女性、子ども、動物などの対象から、玩具、服飾品、お菓子などの物品まで、さまざまな対象を「かわいい」と表現することがわかりました。
では、猫の「かわいい」はどういった特徴を持つのでしょうか。今回は同カテゴリである犬と比較し、大きさや重さ、顔の形、そして性質といった観点から考えてみました。犬と比較した場合、猫は小さく軽い、扁平な顔を持つ孤立的な動物である、と言い表せます。このように、猫以外の「かわいいもの」と比較することで、猫らしさを導き出すことが可能です。
赤川先生は「孤立的」という性質に着眼し、猫の人気が高まりつつある原因を示唆します。