目次
- 奄美大島で「学びと人が循環」するための専門学校が必要だった
- 「どんな境遇でも学びたい人を応援する」地域コミュニティの“強さ”と“優しさ”
- 地域に住む人みんなが、まるで「ひとつの家族のような存在」
- Schooは「ネット空間にあるコミュニティ付きの大きな図書館」
- 学校が持つ理念を追求するための「ツール」にすぎない
- 「誰もがどこにいても学べる環境を」地域の伝統・文化・想いを未来へ
2021.10.07
都市部と地方の格差のひとつとしてあげられるのが、「学習・教育機会の格差」。
その課題を遠隔教育システムによって解決するための足掛かりとして今年5月、社会人向けオンライン生放送学習サービスを提供する「Schoo」は、鹿児島県奄美大島での地方創生推進の包括的パートナーシップ協定を奄美大島内の5市町村(奄美市、大和村、宇検村、瀬戸内町、龍郷町)と締結。これにより、奄美大島全島民約6万人が『Schoo』のサービスを利用できるようになりました。それに伴い、奄美市内にある専門学校でもSchooの導入を開始、教職員の方や学生の方々も利用を始められています。
毎年、一定のIターン・Uターン者はいるものの、高校生の進学や社会人の学び直しの際の島外への人材流出は止まらず、島内人口は年々減少しているという奄美大島。今回はSchooの導入を開始した「学校法人日章学園奄美看護福祉専門学校」で副校長を務める寺師先生と、株式会社Schoo CEO兼CCOの森の対談で語られた、奄美大島での学びの現状や学内でのSchooの活用法、地域における遠隔教育と地域の未来についてご紹介します。
※「奄美情報処理専門学校×Schoo」の対談記事はこちら
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森:学生の方の中にもシングルマザーの方や社会人の方もいらっしゃって、すごく多様性があるなと感じました。いろんな境遇の方を受け入れる体勢が整っているのですね。
寺師:そうですね。いろんな学生がいますが、半分くらいは既卒者です。
介護のお仕事をしていて、今度は看護のお仕事をしたいという方や、結婚して手に職を付けたい方など、本当に色んな背景を持った人がいます。子育てなどのサポートも受けながら通えるので、どんな境遇の方でも通える学校だと思っていますね。
既卒者の方で自分の子どもを他県から連れてきている学生もいますが、地域に住んでいるみんなが子どもの世話をしていて、地域のコミュニティの中で伸び伸びと育っています。
その学生は奄美大島が大好きで、しばらくはこの地域に貢献したいという思いがあるみたいで。他にも学校を卒業した後もそのままここに根付く人もいれば、一旦都会に出てまた戻ってくる人もいます。地域のつながりが結構強いと思います。
森:都心でずっと生まれ育った人が経験したクラスや同級生とはまた違いそうですね。
寺師:つながりは深いと思いますね。今はコロナ禍でなかなか集まることは難しいですが、卒業生とも連絡を取ることも多いんです。「実習のとき話を聞いてくれてありがとう」「先生のおかげで最後まで頑張れました」なんていう声を聞くと、私たちはまた元気になれますし、「これでよかったんだな」と思えます。
森:ここまでのお話で、この地域で暮らす方の人間味がすごく伝わってきました。寺師さんは、奄美大島などの地方や島で学ぶからこそ、得られるものはなんだと思われますか?
寺師:異文化や個性、多様化を受け入れる姿勢や思いやり、といったことでしょうか。地域ごとに文化が異なる中で、そういうものをすべて受け入れながら学んでいくというのを奄美大島全体が体現していると思います。
例えば一人暮らしであれば、自分の家族以外にも隣近所の人が面倒を見てくれたり、コミュニティの中でその人を気遣ってくれるんですよね。私が看護師として県立病院で勤務していたときに、独居の患者さんがいらっしゃったのですが、その患者さんの近所の方がお見舞いに来てくださったこともありましたし。
病院でカンファレンスをするときも、患者さんを支えるために地域の連携をどういうふうにしていこうか、その人の懐の中に入るにはどうすればいいのかなど、「地域をまるで、ひとつの家族」のように考えられるのはここで学ぶことの強みだと思います。
森:貴校で学ばれた学生さんは奄美の病院や福祉施設でお仕事される方が多いですよね。ということは実習で関わった方々やそのご家族と、卒業してからも実際に関わることもあるということですね。
寺師:そうですね。先輩も多いのでOB・OGがかわいがってくれます。都会に行ったとしても、海外に行ったとしても奄美で人と関わった経験が活かせると思っています。自分の価値観だけではなく、相手の文化を理解して寄り添う力が身についていますから。
森:きっと同じ技術を持った同じ年次の介護士の方が介護する1時間と、その地域のことをちゃんと愛していて理解をしている方が介護する1時間とでは全然濃さが違いますよね。
どんな状況においても人との関わりを重視した深いものを提供するからこそ、自分自身もちゃんと向き合って看護、介護しているということが実感しやすいですよね。素敵です。
森:そういった中で弊社のサービスを導入いただき、ありがとうございます。
弊社では10年前から、社会人の方向けにインターネットでの遠隔教育をやってきました。個人や法人向けだけでなく、大学や専門学校などの高等教育機関や首都圏以外のエリアに住まれている方にも均一に最高の教育環境を提供できるようなお手伝いをさせていただいています。
今回、奄美大島にある5つの市町村と提携させていただいて、奄美市に住んでいる方にSchooを利用いただきましょう、という包括提携の中で、貴校とのやり取りをさせていただいていますが、Schooについてはどういった印象をお持ちですか?
寺師:他の企業さんからもeラーニングのお話を聞いていましたが、教える側からの一方的な学びになってしまうことが多いなという印象があり、そこが懸念点でした。
しかし、Schooさんは双方向の学びができるところがいいなと思い、導入を決めたんですよね。双方向の学びは主体性を引き出してくれると思うので、スキルアップにつながると期待しています。
森:ありがとうございます。弊社は奄美大島だけではなく、都心や他の地方とも提携させていただいていますので、「このエリアではこんな取り組みをしていましたよ」と意見交換させていただくことで、少しでもみなさんのお役に立てるのではないかと思っています。
寺師:Schooさんは遠く離れた人ともオンライン上で直にディスカッションができるのがいいですよね。他に奄美看護福祉専門学校で何かできそうな取り組みはありますか?
森:先生方や学生さんに僕のおすすめの取り組みをしてもらうというよりは、貴校に「最新の学習コンテンツとそれを学びたいと思っている奄美大島以外の方々のコミュニティもくっついているインターネット上の大きな図書館が併設された」ことが大きいと思います。
なので、まず「そういうものが使えるようになったんだ」ということを学生の皆さんに知らせていただいて、学生さんが何をどのように使っていただいたのかを見させていただき、みなさんがより使いたい形を一緒に模索していけるといいですね。
「実は皆さんこういう使い方をしたいのではないか」という意見交換をしていくと、貴校に合った自然な形が見えてくると思います。まずはこういう大きい図書館ができたということを学生さんにお伝えいただきたいなと思いますね。
寺師:他の学校がどうやっているのかも知ることができるということですね。
森:そうですね。あとは「ナレッジポケット」という機能(企業や団体が独自に制作した動画を関係者に共有できる機能)で、入学式などの特別な行事のときのみなさんのお話しされている映像を残しておくこともできるので、過去の動画も見れるようになります。
寺師:島外から来ている先生もいるのですが、このコロナ禍で来られなくなったときにその録画した映像を流して授業をすることもできるということですね。逆に学生が体調がすぐれないときは体調が戻ったときに授業をもう一回復習することもできますね。
森:そうですね。昔は学校を休むと友達がノートを取ってくれて、そのコピーを届けてくれるなんてことがありましたが、インターネットだとそれが簡単にできます。しかも先生の話や状況も踏まえて残しておけるので、そこはインターネットを取り入れるいい点だと思います。
寺師:私から逆質問したいのですが、今後Schooと地方自治体や教育機関が提携していくことで、これからどんなふうになっていくのか未来の展望を教えてもらえますか。
森:まず、学校視点でお話しすると、すごくシンプルです。
インターネットやSchoo、オンライン教育というのは、僕は道具だと思っています。目的でもなく、ゴールでもありません。なのでそれをどう使うかは、それぞれの学校の価値観によって異なるべきだと思います。どんな人を育てたいのか、どうあってほしいのかという理念は学校によって別々なはずであり、その方が良いと思います。
なので均一な使い方や理想のゴールがあるわけではなく、その学校の理念に沿った教育をより大きな意味を込めてやっていただくために、Schooを上手く使っていただくことがベストです。
これまでお話ししていただいた人との関わりや地域コミュニティのつながりのお話には我々も大変共感していまして、インターネットやSchooという道具を使って、もっとやりやすくしていただきたいなと思いますね。
森:最後に地域という観点。「首都圏と地方」というのはわかりやすいからよく使われる言葉ですが、今回の例でいうと本当は「東京と奄美大島」だと思います。なので「奄美大島と福岡」もちがいますし、「奄美大島と宮崎」もちがいます。
それぞれの地域が今まで培ってきた文化や言葉、想いがあるので、ありたい像はその地域によっても異なるはずです。言ってしまえば、奄美市と他の町村も全然ちがっていいはずです。
そのちがいを残しつつも未来にバトンを渡すために何をしなければならないかというと、一定の人がそこに残り続ける、そしてその人たちが幸せであるということです。人がゼロになってしまうと文化も言葉も失われてしまいます。
それを未来に継承していくために、その地域を離れてしまう原因となる「学校がない」「教育環境がない」「最新のものが学べない」というところを解決するために弊社のサービスを使っていただきたいです。
その結果、それをもっと磨いた形で未来に継承していくお手伝いをしたいというのが僕たちの想いです。
寺師:自然の中で学ぶことができるというのは本当に素晴らしいです。心も豊かになりますし、ゆとりがないと相手のことを思いやれないかなと思いますね。
森:仰る通りですね。AIに仕事が奪われるなんて話もありますが、最後まで奪われないのは人と人との関わり合いであって、そういうものがすごく価値のある時代になっていくと思います。結局心から何かを愛せるかという力がこれからもっと必要とされていくと思います。
自然や地域コミュニティの中で何かを学ぶというのは、AIに負けない力を養う上ですごく大事な環境だと思います。もし自分に子どもができて、看護や福祉をやりたいと言ったら通わせたいですね。
寺師:人が喜ぶ姿を見て自分の喜びになるというのは自分の成長につながると思います。都会から帰ってきたときにホッとするんですよね。解き放たれたような気持ちになります。
森:都心での暮らしと奄美大島での暮らしは思っていたより全然ちがいました。弊社のメンバー4人で行きましたが、その4人の関係性も深まったと思います。場所や環境、そこにいる人たちが作ってきたものや歴史として重なってきた文化は、人と人を向き合わせるパワーがあるのだと実感しました。
本日は熱いお話をお聞きできました。寺師さん、ありがとうございました。
・学校法人日章学園奄美看護福祉専門学校ホームページ
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株式会社Schoo CEO兼CCO 森さん(以下、森):先日、貴校に初めて伺いました。海が目の前にあって、シンプルにロケーションがすごくいいですよね。
僕は都会暮らしが長いのですが、実際に奄美に行ってみて波の音が聞こえるのがすごく衝撃的で。みなさんからすると毎日聞いていて当たり前かもしれませんが、波の音は心が洗われますし、さらにその地域を愛している先生方や学生さんがたくさんいてすごく奄美が魅力的に感じました。
そんな素敵な環境にある貴校ですが、どういった背景で創設されたのですか?
奄美看護福祉専門学校 寺師さん(以下、寺師):奄美看護福祉専門学校は今年で創設27年目になります。当時は奄美島内には専門学校がなく、看護師や介護福祉士、保育士、幼稚園教諭などを目指す人が、専門的なことを学ぶ学校がない、という理由で島を出られる方が多かったんです。
都会で学びそのまま働く人も多いため、若い人が流出していくばかり。次第に、奄美で働く人材が不足していきました。そこで地域に根ざし、奄美で学び奄美で働く人を増やすことを目的として、奄美市と日章学園の協力により創設された経緯があります。
森:貴校は、通常の私立の学校では考えられないぐらい手厚いサポートもありますよね。
寺師:はい。奄美市や母体となる日章学園の協力があるため、その※支援制度も充実しています。例えば「コラボ支援制度」では、通学費や帰省時の援助が出たりします。有資格者の入学者への援助や成績優秀者は学費免除など、いろんな利点があります。今年10月の受験入学者にはリクルートスーツの引換券、入学準備金、入居準備金、iPadを配布する予定です。(抽選15名)
そういったサポートのおかげで、学生がたくさん来てくださることによって色んな意味で地域が潤いますよね。奄美の人口は増えますし地域の活性化にもつながります。結果、うちの学校が始まってから、鹿児島県内に留まる方も増加しています。
専門学校をここにつくって、その資格を得た方が地域に馴染んで、地域内に広がっていってほしいという想いがあるところは他の学校とは違うかなと思いますね。
※奄美市内在住者に加え、他市町村からの交通費補助などの支援制度があります。
大和村:村在住の学生に対し通学費を一部補助
宇検村:村在住の学生に対し通学費を一部補助
瀬戸内町:町在住の学生に対し通学費を一部補助
龍郷町:町在住の学生に対し通学費を一部補助