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2023.02.03

column

「寄付した古着」がアフリカ経済を壊す。“SDGsっぽい”取り組みの行方

「寄付した古着」がアフリカ経済を壊す。“SDGsっぽい”取り組みの行方

SDGsは世界共通のキーワードであり、いまや企業や教育現場でも注目される言葉となりました。企業のSDGsへの取り組みも近年本格化し、ビジネスモデルや事業そのものを見直すケースも少なくありません。

一方で、あまりに壮大な目標であることから、一人ひとりが自分ごととして捉えるのはなかなか難しい側面もあります。

SDGsに取り組むために必要な視点について、早稲田大学在学中から国際協力活動を始め、現在はフリーランス国際協力師として活躍する原貫太(はら・かんた)さんが講師を務めた『SDGsを自分ごと化するための3個の視点』の授業をもとに考えていきましょう。

目次

  • 「1着6円」で売られる古着に悲鳴を上げる生産者たち
  • 利便性の裏にある“犠牲”
  • 「問題の認知」が抜けたSDGsは危険

「1着6円」で売られる古着に悲鳴を上げる生産者たち

SDGsに取り組む前に、まずはその実情を「知る」ことが重要です。

 

SDGsの取り組みの一つとして、「途上国の人々に向けて古着の寄付」をしたという経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。その服の行き先はどこなのか、ご存知でしょうか?

 

 

実は寄付された古着がたどり着く最終地点は、ほとんどがアフリカの国々。原さんが難民支援を行っていたウガンダでは、寄付された古着が1着6円で売られていました。ウガンダの人々がいくら貧しい生活をしているとはいえ、これはさすがに安すぎる値段です。

 

貧困問題にさらされるアフリカの人々が安い値段で服を購入できるのであれば、それは「援助になるのではないか」という疑問を持つでしょう。

 

確かに、消費者側は安価に服を入手できます。しかし、現地の生産者はどうでしょうか。経済的に自立した生活を送るために現地の人々を雇い、頑張って洋服を作っても、タダ同然で入ってきて安く売られる古着には太刀打ちできず、商売になりません。

 

ガーナでは寄付された古着の流通を主な原因に、この25年間で繊維産業に携わっていた人の8割が失業してしてしまったと言います。安価な古着の流入は、現地の繊維産業を破壊し、労働者の仕事を奪うことにも繋がってしまいます。 良かれと思って行った善意が、実は途上国で暮らす人々に悪影響を与えている場合もあるのです。

 

 

 

利便性の裏にある“犠牲”

「アフリカの人々のために」と思って取り組んでいた援助活動が、実は現地の発展を阻んでいたという皮肉。なぜ、このような「形だけの援助活動」が行われてしまうのでしょうか。

 

誤った支援に繋がっているのは「アフリカでは服が足りていないから送ってあげよう」という、私たちの盲目的な善意。送られる服の中には低品質なものも多く、誰も手に取ることなく埋め立てられる衣類が約4割を占めるとも言われています。これらは環境破壊の原因にもなります。

 

 

ちなみに、日本における廃棄衣類は年間約50万トンという環境省のデータもあります。平均すると、1日あたり大型トラック約130台分に相当し、これらは焼却や埋め立てなどで処分されます。

 

また、廃棄衣類のほとんどは一般家庭から出ており、それらの利活用は社会的な課題にもなっています。確かに家庭にある着なくなった服を、途上国へ寄付するのもいいかもしれません。しかし、寄付した古着が、結局は現地で埋め立てられているのであれば、元も子もありません。

 

・服を購入する時点から長く着られるものを選ぶ

・そもそも余計な服を買わない

・着なくなった服を古着の回収に出す

・染め直しやリペアなどで長く着る

 

こうした心掛けの方が、よっぽどサステナブルな取り組みになるのかもしれません。

 

また、服の廃棄問題は企業側にも原因があります。先進国で当たり前となっている、大量生産大量廃棄のサイクルも環境破壊に繋がっているのです。ファストファッションの台頭で、先進国では常に服が余っている状況。日本の企業だけでも毎年、10億着もの新品の衣類が捨てられています。

 

いつまでも現地の人々が経済的に自立できない根本的な原因は、私たちの豊かな暮らしの先にあるとも言い換えられるでしょう。古着の問題だけでなく、スマートフォンの製造に必要なレアメタルの採掘の裏側にも、低賃金労働や児童労働といった労働問題が潜んでいます。

 

“利便性の裏にある犠牲”。とはいえ、古着の寄付が悪いとも言い切れません。こういった事実があることを念頭に置くことが、SDGsを知る上で必要な視点です。

 

 

 

「問題の認知」が抜けたSDGsは危険

メディアなどで頻繁に取り上げられるようになった「SDGs」という言葉。一方で“問題の認知から始める”という視点が欠けていることが多いのが現状でしょう。

 

SDGsに対する議論のほとんどが、「どうやって関わるか」からスタートしています。このままでは、問題意識が抜け落ちたSDGsが広まっていく危険性もはらんでいます。

 

ビジネスや教育の現場で「SDGsに取り組もう!」と教えこまれたところで、自発的に学ぶ意識がなければ本質的な社会貢献とはいえません。古着の問題のように、善意でやっていた行動が別の問題を引き起こしてしまう可能性も十分にあります。

 

データやファクトから世界を正しく捉え、何をすべきか自分自身が考えることがSDGsに取り組む起点となります。

 

サステナブルな社会づくりに興味のある方は、一度「なぜ、この取り組みを行うのか?」を考え、社会課題の認知を十分にした上で、行動に移してみてはいかがでしょうか。

 

編集・文=青野祐治

 

今回取り上げたSchooの授業はこちら!
SDGsを自分ごと化するための3個の視点

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